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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店



だが、金庫の扉が開いた瞬間、そのわくわくした気持ちはすうっと冷えていった。

中にあったのは、ほんのひと握りのシックル銀貨と、枕ほどの小さな袋に入ったガリオン金貨だけ。モリーおばさんは、隅に転がっていた最後の1枚までていねいに拾い集めて、静かにハンドバッグへしまい込んだ。

魔法界に来てから、何度かモリーおばさんの笑顔に助けられてきた。
けれどその笑顔の裏に、こんな現実があることを、チユははじめて目の当たりにした。


そして次に案内されたのは、ハリーの金庫だった。


その扉が開いたとたん、金色の光がきらきらと溢れ出す。
ハリーはそれを誰にも見せまいとするように、すぐに身をかがめ、手早くコインを革袋へ詰め込んだ。

チユはその背中を見つめる。

ハリーだって、決して誇らしげにしているわけじゃない。
どれだけ持っているかなんてことより、誰がどう思うかを、ハリーはちゃんとわかっているんだ。

だからチユは、何も言わずに、そっとその場を離れた。

大理石の階段を登って地上に戻ると、空気が一気に変わった。明るくて、にぎやかで、眩しい。
けれど皆は、そこで自然に別々の行動を取ることになった。


「新しい羽根ペンがいるんだ」
パーシーは小声で言い残して、どこかへ行ってしまった。


「おっ、リー・ジョーダン発見!」
人混みの向こうを見て、フレッドが叫ぶと、

「悪友召喚の呪文、発動ー!」
とジョージが叫び返し、双子はぴったり同じ動きで駆け出した。

「おーいチユー、あとで話そうぜ!」
「町から追い出されてなかったらな!」

フレッドとジョージは、チユに軽く手を振って、嬉しそうに駆けていく。


モリーおばさんは、ジニーの肩に手を置きながら言った。
「さあ、私たちは中古の制服を見に行きましょ」


そのときアーサーおじさんは、まだグレンジャー夫妻と話し込んでいた。

「『漏れ鍋』という素晴らしいパブがあるんですよ。ぜひ、マグルのお2人も一緒にいかがですかな?」

少しだけ肩をそびやかせて、満面の笑顔。チユは思わずくすっと笑った。


そこへ、モリーおばさんの声が響く。


「1時間後に“フローリシュ・アンド・ブロッツ書店”で落ち合いましょう。教科書を買わなくちゃいけませんからね!」
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