第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
だが、金庫の扉が開いた瞬間、そのわくわくした気持ちはすうっと冷えていった。
中にあったのは、ほんのひと握りのシックル銀貨と、枕ほどの小さな袋に入ったガリオン金貨だけ。モリーおばさんは、隅に転がっていた最後の1枚までていねいに拾い集めて、静かにハンドバッグへしまい込んだ。
魔法界に来てから、何度かモリーおばさんの笑顔に助けられてきた。
けれどその笑顔の裏に、こんな現実があることを、チユははじめて目の当たりにした。
そして次に案内されたのは、ハリーの金庫だった。
その扉が開いたとたん、金色の光がきらきらと溢れ出す。
ハリーはそれを誰にも見せまいとするように、すぐに身をかがめ、手早くコインを革袋へ詰め込んだ。
チユはその背中を見つめる。
ハリーだって、決して誇らしげにしているわけじゃない。
どれだけ持っているかなんてことより、誰がどう思うかを、ハリーはちゃんとわかっているんだ。
だからチユは、何も言わずに、そっとその場を離れた。
大理石の階段を登って地上に戻ると、空気が一気に変わった。明るくて、にぎやかで、眩しい。
けれど皆は、そこで自然に別々の行動を取ることになった。
「新しい羽根ペンがいるんだ」
パーシーは小声で言い残して、どこかへ行ってしまった。
「おっ、リー・ジョーダン発見!」
人混みの向こうを見て、フレッドが叫ぶと、
「悪友召喚の呪文、発動ー!」
とジョージが叫び返し、双子はぴったり同じ動きで駆け出した。
「おーいチユー、あとで話そうぜ!」
「町から追い出されてなかったらな!」
フレッドとジョージは、チユに軽く手を振って、嬉しそうに駆けていく。
モリーおばさんは、ジニーの肩に手を置きながら言った。
「さあ、私たちは中古の制服を見に行きましょ」
そのときアーサーおじさんは、まだグレンジャー夫妻と話し込んでいた。
「『漏れ鍋』という素晴らしいパブがあるんですよ。ぜひ、マグルのお2人も一緒にいかがですかな?」
少しだけ肩をそびやかせて、満面の笑顔。チユは思わずくすっと笑った。
そこへ、モリーおばさんの声が響く。
「1時間後に“フローリシュ・アンド・ブロッツ書店”で落ち合いましょう。教科書を買わなくちゃいけませんからね!」