第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
大丈夫。大丈夫。
でも、その「大丈夫」が吹き飛んだのは、発車してから3秒後のことだった。
ゴウン、と音がして、トロッコは突然、矢のような勢いで走り出した。
「――きゃああああああ!!」
「わっ!? 大丈夫か、チユ!?」
「落ちないように掴まってて!」
ハリーがチユの肩を押さえ、ロンがチユの手を掴む。
トンネルの風が髪を巻き上げ、目の前が真っ暗になった。
どこまでも続く曲がりくねったレール、急降下、急上昇、鋭角なカーブ。
「はやい!はやいはやいはやい――ッ!」
「だから言っただろ、スリルあるって!」
ロンが半笑いで叫ぶ。
「あと少しで金庫に着くから、目閉じてもいいよ!」
ハリーの声が、風に押し流されながらも優しく響いた。
目を閉じると、浮遊感が一層強くなった気がして、チユはあわてて目を開けた。
「……リーマスはこんなこと教えてくれなかった……っ」
ガタガタと揺れるトロッコの中で、チユは半泣きになりながら、心の中でリーマスに訴えた。
ウィーズリー家の金庫に向かうトロッコは、まるで風そのものになったような速さだった。
チユにとっては、はじめての地下金庫への旅。顔が引きつるほど怖かったけれど、それでもどこか胸の奥がざわざわして――新しい世界の一部に足を踏み入れたような気がしていた。