第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
それから、グリンゴッツ銀行の白く輝く階段の下で、ハーマイオニーの姿を見つけたとき、チユの胸の奥に広がっていた緊張が、ふっとほどけるのを感じた。
「みんな! 久しぶりね! ハリーも無事で、本当に良かったわ!」
ハーマイオニーが駆け寄ってきて、真っ先にチユの手を両手でぎゅっと握る。
そのしっかりとした温もりに、チユは自然と笑みを浮かべた。
ハーマイオニーの瞳は、心の底から安堵しているように潤んで見えた。
ロンもハリーの背中を軽く叩き、フレッドとジョージは「さすが話題のハリー・ポッター様!」とふざけながらもどこか安心した様子で笑っていた。
4人は、わいわいと話しながら階段を上がっていく。
その途中で、ハリーがふと思い出したように言った。
「ねえ、『ボージン・アンド・バークス』の店で、誰に会ったと思う?」
チユとハーマイオニーが顔を見合わせ、ロンが「誰?」と聞き返すと、ハリーは口を引き結びながら答えた。
「ドラコ・マルフォイと、その父親」
その名前に、チユの背筋が一瞬だけぴんと伸びた。
自分もさっき通りで2人に会ったところだった――そう言いかけたとき、アーサーおじさんの声が会話に割って入った。
「ルシウス・マルフォイは、何か買っていたのかね?」
「いいえ。むしろ……何か、売ってました」
ハリーが答えると、アーサーおじさんの表情が一変した。
「そうか、それじゃあ心配になったわけだな……」
彼は真顔になり、どこか満足そうにうなずいた。
「ああ、ルシウス・マルフォイのしっぽを、いつか掴んでやりたいもんだ……!」
その目は探るように鋭く、普段の穏やかな印象とは打って変わっていた。
「アーサー、気をつけてくださいな」
ウィーズリーおばさんがぴしゃりとたしなめるように言い、アーサーおじさんは少し照れたように咳払いをした。
チユはふと、ドラコとルシウスの冷たい目を思い出す。
言葉にはしなかったけれど、あのとき、何か得体の知れない“違和感”を、確かに感じていた。