第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
「ドラコ」
ルシウスが静かに名前を呼ぶと、ドラコはすぐに口をつぐんだ。彼の声は静かで、それだけで場の空気が凍るようだった。
「……心配なのはわかるが、無闇に騒いでも状況は好転しない。君のような子どもが街をうろついていては、何かと問題も起きるだろう」
その目は、まるで“身の程を弁えろ”とでも言いたげだった。
チユは一瞬、言い返せずに唇を噛んだ。でも、すぐに目を上げて、まっすぐにルシウスを見返した。
「……ハリーは、大切な友達なんです。放ってなんかおけない」
「ふーん……そう、大切ねぇ……」
ドラコがふと視線をそらし、何かを噛みしめるように言う。
その声には、皮肉と――ほんの少しの、苛立ちが混じっていた。
「じゃあ、迷子同士、いい勝負かもね」
そう言って、2人は優雅に踵を返し、通りの奥へと消えていった。
チユの足は、再び通りを駆け出していた。
曲がり角を駆け抜け、2本目の通りに差しかかったそのときだった。
「チユ!」
名前を呼ばれて、足が止まった。
振り返ると、そこにいたのは――
「ハリーっ……!」
思わず駆け寄って、そのまま飛びつくように抱きついた。
その背中に両腕を回して、ぎゅっと力を込める。あたたかくて、ちゃんとそこにいる。夢じゃないんだ、と胸の奥がじんと熱くなる。
「すごく、すごく心配したんだから……!」
「ごめん、僕も。変な場所に飛ばされて、でもハグリッドが見つけてくれたんだ」
「へへ、ようチユ。元気そうで何よりだ」
隣には、ハグリッドの大きな影。いつもの優しい笑顔がそこにあって、チユは一気に緊張の糸がほどけたように感じた。
「ハグリッドこそ元気そうで良かった、それに、ありがとう、ハリーのこと……!」
「お安い御用さ。まったく、あんな所に飛ばされるなんてな」
ハグリッドが苦笑まじりに言うと、ハリーも肩をすくめた。
「チユ!ハリー!ああ、いたいた!なんてこったい、もう全員バラバラになっちまって……!」
遠くからアーサーおじさんの声がして、振り返ると、ウィーズリー一家がぞろぞろと歩いてきた。
「やれやれ、ほんの数分目を離しただけで、全員いなくなるとは……」
と、アーサーおじさんが苦笑いした。