第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
「もう、待てない……!」
不安が胸いっぱいに広がって、チユは我慢できずに立ち上がった。
フレッドとジョージが呼び止める声も背中で振り切り、『漏れ鍋』の重たい扉を勢いよく開けて、外に飛び出した。
石畳の路地に出ると、朝の空気が肌にひんやりと触れた。だけど、そんなこと構っていられない。
どこかで迷子になって、怖い思いをしているんじゃないだろうか――頭の中は不安でいっぱいだった。
「ハリー……っ!」
人々の間をかきわけながら、必死に通りを見回す。けれど見覚えのある黒髪も、丸眼鏡も、どこにも見つからなかった。
そのときだった。チユの足がぴたりと止まった。
石造りのアーチの下、光の差す一角に、鮮やかな金色の髪が揺れた。
……あれは
立ち止まるチユの視線の先にいたのは、銀色のステッキを手にした堂々たる男性――そしてその傍らには、見慣れた淡いブロンドの少年、ドラコ・マルフォイがいた。
ふたりは優雅な仕草で店先を眺めていたが、チユの視線に気づくと、ドラコがゆっくりと振り向いた。
「やあ……なんだ、こんなところで迷子か?」
その口調は軽く、どこか愉快そうですらあった。けれど、その目にはいつもの皮肉と冷たさが光っている。
「……ああ、父さん。この子、僕の学校の……チユ・クローバーだよ」
ドラコが少しだけ口元を吊り上げるように言うと、男はチユに目を向けた。
「初めまして、チユです……」
「私はルシウス・マルフォイ。君のことはドラコから聞いているよ。学校での騒動……君も加わっていたそうじゃないか。大活躍だったそうだね」
どうやら『賢者の石』を守った出来事は、すでに知られているらしい。
ルシウスの視線が、まるで何かを値踏みするようにチユに向けられる。その視線の重さに、チユの背筋がぴんと伸びた。
「あの、ハリーが違う暖炉に飛ばされたのかもって……探してるの。見なかった?」
ほんの少し、声が震えた。
「ふぅん、アイツまぬけだからね。煙突飛行で迷子になるなんて、似合いすぎてて笑えるじゃないか」
ドラコは嘲るように言ってから、肩をすくめた。「でも、どこかで鼻から足が出てなきゃいいけど?」