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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店



緑の炎に包まれた瞬間、チユの視界はぐるぐると回り、世界がぐしゃぐしゃに引き伸ばされるような感覚に襲われた。目を開ける余裕もないまま、どこかへと引きずられ――次の瞬間、足元が硬い石の床に触れ、ぴたりとすべてが止まった。

「……っ!」

息を呑んで目を開けると、そこは見覚えのある古びたパブだった。


「……漏れ鍋……ちゃんと、着いた……!」


安堵で胸をなで下ろしたそのとき、背後の暖炉が再び燃え上がった。


「よっ、姫。ただいま到着!」
緑の炎の中から、フレッドが軽やかに飛び出してきた。

「うまく着地できたな、姫。今日は鼻に煤ついてないぞ」続けざまにジョージも現れ、ぱっと灰を払い落とす。

2人は肩をすくめながら楽しそうに笑い合う。
チユも思わず笑ってしまった。


しかし、次に現れたロンが暖炉から転がるように出てくると、その空気が一変した。


「ぶえっ……毎回これ、気持ち悪い……」


立ち上がってきょろきょろと辺りを見回したロンが、すぐにチユに目を向けた。


「ねえ、ハリーは? どこにいるの?」


チユは一瞬、口を開きかけて――それから、小さく首を振った。


「……まだ来てないよ……」


言った途端、心の奥に冷たいものがすっと落ちていった。


「えっ、でも、僕より先に行ったんだよ……」


緑の炎は静かに燃えている。だが、次の1人が現れる気配はない。



「まさか…違うところに飛ばされちゃったんじゃ……っ!」

チユはぱっと暖炉の前に駆け寄った。そこにハリーの姿はない。
粉の残り香がわずかに残るだけで、そこにはもう誰の気配も感じられなかった。


「ハリー……」
チユの声が、小さく揺れる。

「落ち着け、姫」
ジョージがそっと肩に手を置いた。

「そうそう、ハリーなら大丈夫さ。鼻がちょっとズレてても、本人が無事なら問題ないって」
フレッドが冗談まじりに言うけれど、その目は少しだけ心配そうだった。

それでも、チユは唇を噛みしめて、暖炉の奥をじっと見つめた。


(お願い、ちゃんと……ちゃんと、無事でいて)


暖炉の炎は、何も語らず静かに揺れていた。
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