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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店


モリーおばさんは、水曜日の朝早くにみんなを起こした。

「さあ起きて!ロンドンへ行くわよ!」

サンドイッチを一気に飲み込んで、みんなコートを着込んだ。


「フルーパウダー(煙突飛行粉)もだいぶ減ってるわね……」
モリーおばさんが暖炉の上に置かれた小さな植木鉢を手に取り、ため息をついた。


「今日、買い足しておかないと――さて、お客様からどうぞ。チユ、ハリー、どちらが先に行く?」


差し出された鉢の中には、エメラルドグリーンの粉がふわりと積もっていた。


「な、何をすればいいの?」
ハリーが戸惑った声を上げた。

「ハリーは煙突飛行粉を使ったことがないんだ!」
ロンがハッとしたように言った。


チユはその言葉を聞いて、ふと1年前の自分を思い出した。

リーマスに連れられて、初めてフルーパウダーを使った日のこと――
暖炉の前でぎこちなく立ちすくんで、火の中に飛び込む瞬間、目をぎゅっと閉じたあの感覚。


(怖かったな……でも、今はもう大丈夫)


「1度も使ったことがないのかね?」
アーサーおじさんが顔をのぞかせるように訊ねた。

「じゃあ去年は、どうやってダイアゴン横丁まで行ったのかね?」

「地下鉄に乗りました」
ハリーの答えに、アーサーおじさんの目がきらりと輝いた。

「ほう……! それは実に興味深い!地下鉄というのは、あれだね、あの鉄の箱の中を――」


「アーサー、その話は後にして」


モリーおばさんがぴしゃりと遮った。「ハリー、煙突飛行ネットワークは地下鉄よりもずっと速いわ。ただし、初めてだとちょっと怖いかもね」



「だったら、レディーファーストでいこうか」
フレッドが、どこか芝居がかった声で言った。

「姫、ささ、どうぞ。栄えある最初の1人に」
ジョージも膝を折って手を差し出す。

「2人とも……そういうときだけ紳士なんだから」


モリーおばさんがにっこり笑って鉢を差し出す。


チユは一瞬、手を止めた。


火の中に飛び込むあの感覚は、何度やっても慣れたとは言えない。
それでも、後ろに並ぶみんなの顔を見て、小さく頷いた。

「行ってくるね」


そう言って、チユは小さな手で粉を一握り、暖炉の中に入った。

粉をぱっと投げ入れながら、はっきりと声に出した。

「ダイアゴン横丁!」


緑の炎が燃え上がり、チユの姿は音もなく消えた。
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