第1章 満ちる月、満ちない気持ち
「けれど、ハリーと私がその少女を預かることと、何が関係あるんですか?」
リーマスの声には、戸惑いと困惑が滲んでいた。
「大いに関係あるのじゃ」
ダンブルドアは柔らかく微笑む。
「ハリーには、その少女と出会う必要がある。けれど、彼女を救えるのは君だけなのじゃよ、リーマス」
「……脅しのつもりですか」
「そう捉えてもらっても構わんよ」
ダンブルドアは愉快そうに、ひとつ笑った。
リーマスは深く息を吐き、目を伏せた。
「どうして……どうしてその少女とハリーが出会わねばならないんです?それに、どうして私にしか救えないなんて……」
「時が来れば、わかるじゃろう」
ダンブルドアの言葉はいつも通り曖昧で、核心に触れることはない。
けれど、リーマスはもう知っていた。彼がどれほど問うても、明確な答えなど最初から返ってこないのだと。
それでも、目の前のこの男の言葉には、何故か逆らえなかった。
彼の言葉には、重みと……不思議なあたたかさがあった。
「無理です。私は……私はもう、誰も傷つけたくない」
リーマスは静かに顔を伏せた。
――そして、誰も失いたくない。
その想いだけが、胸の奥で痛みを放ち続けていた。
「わしは信じておるよ」
ダンブルドアの声は、どこまでも優しかった。
「リーマスは、昔から心優しくて頼りになる男じゃからのう」
かつて、人狼である自分をホグワーツに受け入れてくれたこと。
変身時に身を隠すための場所を、わざわざ『叫びの屋敷』として用意してくれたこと。
誰よりも自分を『生徒』として、1人の人間として扱ってくれたのは、このダンブルドアだった。
「信じておる」――あのときと同じ言葉が、胸の奥を震わせる。
リーマスは、重たい沈黙のなか、ようやくうなずいた。
渋々ではあったが、少女を預かることを承諾したのだ。