第1章 満ちる月、満ちない気持ち
「……実はな、頼み事があって来たのじゃよ。リーマス。ある孤児の少女を、ホグワーツに入学するまでの間、預かってはくれんか?」
「……預かる……?」
あまりに突拍子もない言葉に、リーマスは目を細めてダンブルドアを見た。
何かの冗談ではないかとさえ思った。
だが、ダンブルドアの目は真剣だった。
「失礼ですが、ダンブルドア……あなたは私の事情をご存知でしょう?」
リーマスは、ため息まじりに言った。
「無理です。私が、満月に少女を傷つけてしまったらどうなるんですか?安全を保障できない」
「わしは、君なら大丈夫だと信じておる」
その言葉に、リーマスはついに視線を逸らした。
「……信じられても困ります。生活もギリギリで、着る物すらこれが精一杯。誰かの面倒を見る余裕なんて……私には、ありません」
その声は、静かだが、どこか諦めと悔しさに満ちていた。
「知っておる。君の状況も、それでもなお、君にしかできんこともある」
ダンブルドアは少し間を置き、ふと懐かしむように語った。
「実は来年、ハリー・ポッターがホグワーツに入学してくる」
「……ハリーが?」
その名に、リーマスの表情が変わった。
「ジェームズの……息子が……」
「うむ。驚くほど、ジェームズにそっくりじゃ。外見も、目を輝かせるあの感じも」
「……もう、そんなに時が経ったんですね……」
リーマスはゆっくりと椅子にもたれ、目を細めた。
学生時代の記憶が、胸の奥に静かに蘇ってくる。
人狼という孤独な運命を背負いながらも、あの時だけは、仲間がいた。
かけがえのない日々だった。
「その少女もきっと君にしか見せられない世界がある。孤独な心は、君が1番わかってやれるはずじゃ」
静かな、けれど確かな声だった。
リーマスは紅茶の冷めた香りを鼻先で感じながら、答えを見つけられないまま、俯いたまま黙っていた。