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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第1章 満ちる月、満ちない気持ち



「……実はな、頼み事があって来たのじゃよ。リーマス。ある孤児の少女を、ホグワーツに入学するまでの間、預かってはくれんか?」


「……預かる……?」


あまりに突拍子もない言葉に、リーマスは目を細めてダンブルドアを見た。
何かの冗談ではないかとさえ思った。


だが、ダンブルドアの目は真剣だった。



「失礼ですが、ダンブルドア……あなたは私の事情をご存知でしょう?」



リーマスは、ため息まじりに言った。



「無理です。私が、満月に少女を傷つけてしまったらどうなるんですか?安全を保障できない」

「わしは、君なら大丈夫だと信じておる」



その言葉に、リーマスはついに視線を逸らした。



「……信じられても困ります。生活もギリギリで、着る物すらこれが精一杯。誰かの面倒を見る余裕なんて……私には、ありません」



その声は、静かだが、どこか諦めと悔しさに満ちていた。



「知っておる。君の状況も、それでもなお、君にしかできんこともある」



ダンブルドアは少し間を置き、ふと懐かしむように語った。



「実は来年、ハリー・ポッターがホグワーツに入学してくる」

「……ハリーが?」



その名に、リーマスの表情が変わった。


「ジェームズの……息子が……」

「うむ。驚くほど、ジェームズにそっくりじゃ。外見も、目を輝かせるあの感じも」


「……もう、そんなに時が経ったんですね……」


リーマスはゆっくりと椅子にもたれ、目を細めた。
学生時代の記憶が、胸の奥に静かに蘇ってくる。

人狼という孤独な運命を背負いながらも、あの時だけは、仲間がいた。
かけがえのない日々だった。



「その少女もきっと君にしか見せられない世界がある。孤独な心は、君が1番わかってやれるはずじゃ」



静かな、けれど確かな声だった。



リーマスは紅茶の冷めた香りを鼻先で感じながら、答えを見つけられないまま、俯いたまま黙っていた。

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