第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
「マジかよ、おい」
ロンが絶望の声を上げた。
「休み中だぜ、なのに宿題かよ!」
ハリーが苦笑しながら、チユの肩越しに広げた羊皮紙をのぞき込んだ。チユの手紙の一番下には、ハーマイオニーからの丁寧な筆跡が添えられていた。
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水曜日に新しい教科書を買いにロンドンに行きます。ダイアゴン横丁で会いしませんか?
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「ちょうどいいわね」
モリーおばさんがテーブルを片づけながら声をかけてきた。
「私たちも出かけて、あなたたちの分をそろえましょう。今日のみんなの予定は?」
今日は、丘の上にあるウィーズリー家の小さな牧場に出かける予定だった。
その草むらは辺りを囲む木立が柔らかく日差しを遮っている。下の村からは見えない場所で、空を高く飛ばなければマグルに見つかる心配もない。絶好のクィディッチの練習場所だった。
本物のクイディッチ用ボールはさすがに使えなかったけれど、代わりにフレッドとジョージがリンゴを投げ合いながら、キャッチの特訓を始めた。
ニンバス2000を手にしたハリーがふわりと空へ舞い上がると、みんなが歓声を上げた。
その滑らかな動き、風を切る音――まさに名機だった。
「さすがニンバス。葉っぱより遅いあいつとは大違いだな」
フレッドがロンの箒『流れ星』を指差してニヤリと笑った。
「……葉っぱに追い越されるの、今日は2回目……」
ロンがむすっとして呟く。
そんな中、チユは少し離れた岩の上に腰を下ろし、風に髪をなびかせながら、にぎやかな様子を静かに見つめていた。
彼女は箒には乗らなかった。
去年、空中でバランスを崩して落ちた記憶が、今も背中をひやりと撫でる。
「姫もやろうぜ!」
フレッドがニヤリと笑って声をかけてくる。
「ううん、私は見てるだけで十分、楽しいから」
チユは小さく微笑んで首を振った
そう言ったチユの言葉に、ジョージが振り向いて口元をにやりと上げた。
「おやおや、それはつまり……観客席の特等席をご所望ってことか、姫?」
「なんなら実況つきでご案内しますよー!」
フレッドもすかさずウィンクを飛ばす。
「えと……じゃあ、お願い、します……」
チユは照れくさそうに笑って、2人の隣にちょこんと座り直した。
