第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
「実況開始!『さあ本日も、イカれたクイディッチ野郎たちが、青空の下でバカな飛行を披露してまいります!』」
「『実況は私、ジョージ・ウィーズリーと!』」
「『解説はわたくし、フレッド・ウィーズリーでお送りしまーす!』」
まるで本物の試合みたいに盛り上げる2人の声に、チユもついくすくすと笑ってしまった。緊張のない、安心できる時間だった。
フレッドたちと笑い合いながら、チユはふと、リーマスとの手紙のやりとりを思い出していた。
家計の話題になると、彼はいつも話を逸らす。
でも、彼の温かな手紙の端には、かすかににじむ苦労の影がある。
(……もっとしっかりしなくちゃ)
そんな思いを胸に抱きながらも、今日は少しだけ、それを棚に上げた。
「こんな日が、ずっと続けばいいのにな……」
心の中でそっとつぶやいたとき、誰かが背中を軽くつついた。ロンだった。
「なあ、チユもそろそろ箒に乗ってみたら? 今日は風も弱いし、フレッドとジョージが横で見ててくれるって」
「え、あの、う……うーん……でも……」
すると、フレッドが肩をすくめてにっこり笑った。
「じゃあ、次の機会ってことで。姫は今日は応援団だな!」
「さ、実況に戻るぞ! 我々の解説がないと、ハリーが何回転したかすら誰にも伝わらんからな!」
ジョージが勢いよく立ち上がると、チユも小さく笑ってうなずいた。心の奥の不安を、やさしい風がそっと吹き流してくれたような、そんな気がした。
5人は箒を担いで、牧場から続くなだらかな丘を登っていった。
夏の匂いと草の感触が、どこまでも優しく包んでくれる。
「パーシー、今日は来ないの?」
ふと振り返って、チユが尋ねると、ロンが肩をすくめた。
「誘ったけど、“忙しい”ってさ。ほとんど部屋にこもってるんだよな」
「いったい何を考えてるんだか……」
フレッドが小さく眉をひそめた。
「あいつらしくないんだよな」
不意に、ロンがぽつりとつぶやいた。
「ハリーが来る前の日にさ、統一試験の結果が届いたんだ。パーシー、12教科ぜんぶパスして、『12フクロウ』だったのに――1回も笑わなかったんだぜ」