第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
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2年生は次の本を準備すること。
『基本呪文集(2学年用)』
『泣き妖怪バンシーとのナウな休日』
ギルデロイ・ロックハート著
『グールお化けとのクールな散策』
ギルデロイ・ロックハート著
『鬼婆とのオツな休暇』
ギルデロイ・ロックハート著
『トロールとのとろい旅』
ギルデロイ・ロックハート著
『バンパイアとバッチリ船旅』
ギルデロイ・ロックハート著
『狼男との大いなる山歩き』
ギルデロイ・ロックハート著
『雪男とゆっくり1年』
ギルデロイ・ロックハート著
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「……多っ!」
思わず、声がもれた。
タイトルを見ていくだけで、なんだか頭がくらくらする。どれもこれもロックハート、ロックハート、ロックハート。
そのとき、隣からフレッドが身を乗り出して、チユのリストをのぞき込んだ。
「おおっと! 姫のもロックハートのオンパレードじゃんか!ロックハートランドへようこそ!たぶん防衛術の新しい先生、よっぽどのファンなんだぜ。絶対、魔女だな」
得意げにそう言ったところで、フレッドの視線がふと母親とばっちり合った。モリーおばさんの眉がぴくりと動く。
「あ、いや、その……ママレード取ってくれる?」
フレッドは慌ててトーストにママレードを塗りたくり始めた。
「でもさ、笑いごとじゃないんだよな。ロックハートの本、1冊でも高いのに、これだけ揃えたら……いたずら商品がいくつ買えることやら」ジョージが続いた。
「ロケット花火1年分ってとこかな」
ジョージがさりげなく両親のほうをちらりと見てつぶやくと、モリーおばさんが小さくため息をついた。
(……こんなにたくさんの本、しかも全部新品で買うとなると……)
思わず、手元のリストを握る指に力が入る。
(リーマスに負担をかけてしまう……)
今年も、養父であるリーマスが、彼女の学用品を揃えてくれる予定だった。
れど、彼がどんな生活をしているかは、チユ自身、よく知っていた。
仕事は安定せず、体調もいつも万全とは言えない。
それでも「チユには何不自由なく学ばせたい」と微笑む彼の顔が、頭の中に浮かぶ。
──そして、そのやさしい瞳の奥にある、ほんのわずかな疲れの色も。