第2章 秘密の夏休み
それから数日、チユは『隠れ穴』でハリーたちと一緒に穏やかな時間を過ごした。
朝は鳥のさえずりとともに目を覚まし、誰かの足音や騒がしい声が階下から響いてくる。
「朝ごはん前にスキャバーズが行方不明だ!!」
階段の下から、ロンのやや必死な声が聞こえてくる。
それを追いかけるように、
「ネズミがいなくなったのは君の部屋が散らかってるせいだー!」
「部屋ごと消毒するチャンスだな!」
と、フレッドとジョージの双子の声が被さる。
「もうやめろってば!」と、ロンの叫びが続く。
チユは寝巻き姿のまま、階段の手すりにもたれて、くすっと笑った。
こうして毎朝のように誰かが何かをなくしたり、誰かがからかって、それを誰かが止めようとする。その繰り返しが、妙に心地よかった。
時おり、フレッドとジョージの部屋から『ドカン!』という爆発音が聞こえても、誰1人眉をひそめることもなく、「また何かやってるな」くらいの顔をしていた。
食卓に着けば、モリーおばさんの料理が大皿にどんと並び、皿を取り合うように賑やかにフォークとナイフが飛び交う。
「ねえチユ、目玉焼きってひっくり返す派? それともそのまま派?」
「うーん…目玉の気分によるかも……?」
「なにそれ!」
フレッドとジョージが同時に吹き出す。
その日の午後、ロンに誘われて裏庭でキャッチボールをすることになった。
ただし、ロンが選んだのは、普通のボールではない。
「バウンドしすぎる不思議なボールさ。うまく投げられると……たぶん、キャッチできる」
「……たぶん?」
チユが目を丸くした次の瞬間、ボールはロンの手から飛び出し、空中でくるりと向きを変えると――
「きゃっ!」
チユの頭上をすり抜け、木の枝を直撃。葉がはらはらと落ちてきた。
「わっ、ごめん!あれ、さっきより曲がってる…?」
「木が泣いてるぞー!」
「次のターゲットは誰かなー?」
フレッドとジョージは木陰から爆笑している。
孤児院での日々や、夜の冷たいシーツの感触が、まるで遠い昔のことのように思えた。
かつては、笑いながら誰かと過ごす時間なんて想像できなかった。 “家族”って、こういうふうに笑って騒いで、寄り添い合うものなんだろうか――そう思うと、胸がふわりと温かくなる。