第2章 秘密の夏休み
階段を上がっていくと、3番目の踊り場にあるドアの隙間から、ひょこりと誰かの視線が覗いていた。
チユがふと目を向けると、それと同時にバタン、と勢いよくドアが閉じる。
「ジニーだ」
ロンが小声でハリーに耳打ちした。
「妹だよ。夏休み中ずっと、君のことばっかり話してたんだ」
「……あんなにシャイなの、おかしいな」ロンは続けた。「いつもなら、おしゃべりが止まらないのにさ。ハリーの顔見たら真っ赤になって逃げちゃうなんて」
(……わかるかも、そういう気持ち)
チユは心の中でぽつりとつぶやいた。
自分だって、ロンや双子の前では平気なのに、ゼロに近づかれると胸がそわそわして仕方ない。
やがて階段をさらに2つ、3つ上りきると、ペンキがところどころはげかけたドアの前にたどり着いた。ドアには手作りの小さな看板がかかっていて、ちょっと曲がって『ロナルドの部屋』と書いてある。
「どうぞ」ロンが少し照れくさそうに言って、ドアを開けた。
中に入ると、天井が斜めに傾いている。
ゴンッ、と鈍い音が響いて、チユの額が天井の傾斜部分に直撃した。
「いたっ……!」
「大丈夫?」ハリーがすぐに振り返る。
「う、うん……ちょっと油断しただけ……」
頭を押さえながら、なんとか笑おうとするチユ。
けれど次の瞬間、窓際に近づこうとして――また、ゴン。
「いたたた……」
「チユ、それ、家に来る度にやってない?」
ロンが呆れたように言って、眉をひそめる。
「えっ、うそ……?」
チユはきょとんとして天井を見上げ、気まずそうに笑った。
「なに?この家の天井って、ちょっと動いてない……?」
「いや、君が動いてるんだよ」
ロンがため息をつきながらも、どこか楽しそうに肩をすくめた。
ハリーは笑いをこらえきれず、ぽんぽんとチユの背中を軽くたたいた。
「もうヘッドガードでも貸してあげようか?」
「……うぅ、それ欲しいかも」
チユは額を押さえたまま、情けないような、それでもどこか楽しげな声で答えた。