第2章 秘密の夏休み
「ハリー?」
アーサーおじさんはきょとんとした顔で、台所をぐるりと見渡した。
「どのハリーだね?」
その視線が部屋の隅に立つハリーに止まると、次の瞬間――彼はまるで椅子にバネでも仕込まれていたかのように、ぴょんと立ち上がった。
「なんとまあ、ハリー・ポッター君かい!?よく来てくれた!ロンがいつも君のことを――」
「あなたの息子たちが!」
モリーおばさんがその言葉を鋭くかぶせるように叫んだ。
「昨夜、ハリーの家までその車を飛ばして、また戻ってきたんですよ!」
その場が静まり返る中、チユは息をひそめていた。
モリーおばさんのあまりの迫力に、小さく体をすくめ、そっとジョージの袖をつまむ。
「怖いのか?」ジョージが、小さくささやく。
「……モリーおばさんの怒った声、ちょっと、地響きみたいで……」
震えそうな声でそう言うと、フレッドが口元を隠して笑いをこらえた。
「なかなかの詩人じゃないか」
「何かおっしゃりたいことはありませんの?え?」
モリーおばさんがじりじりと詰め寄る。
アーサーおじさんは少しだけ身を引きながら、うずうずとした声で尋ねた。
「や、やったのか? 本当に? うまくいったのか? つ、つまりだな……飛行、できたのかね?」
その目は少年のように輝いている。まるで一緒にその冒険に行きたかったかのように。
だが――その好奇心の火花に気づいたモリーおばさんの目にも、別の意味の火花が走った。
アーサーおじさんはその視線を見て、ハッとした。
「あ、いや、その……それはイカン。うん、そりゃもう絶対にイカンことだ……と、父さんは思うぞ。うん、断固として反対だ……」
尻すぼみにそう言いながら、彼はお茶のカップの縁をまじまじと見つめ始めた。
「話、長いしさ」
ロンが、ふいに立ち上がってぼそっと言った。
「ハリー、チユ。僕の部屋、行こう」
「うん……」
チユはそっと頷いた。逃げるようにジョージの袖を手放し、ハリーと一緒にロンのあとを追う。
(とにかく、早くこの空気から出たい……!)
後ろからは、まだモリーおばさんの怒りの声と、アーサーおじさんの困ったような相づちが聞こえていた。
チユはそれを背中で聞きながら、階段を上る足に少しだけ力を込めた。