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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第1章 満ちる月、満ちない気持ち



ヴォルデモート卿が滅び、不死鳥の騎士団が解散されてからというもの、リーマス・ルーピンの暮らしは、寂しさと静けさに包まれていた。


狭く、湿気のこもった路地裏の朽ちかけた小さな家。

彼はそこで、身の丈に合わないほど平凡で単純な仕事を転々としながら、静かに、しかしどこか諦めを含んだ日々を送っていた。

能力があっても、人狼という事実がそのすべてを覆い隠す。


世間の冷たい視線に、彼は何度も心を折られていた。


そんな暮らしのある日、めったに誰も訪れない家の扉が、コン、コンと控えめに叩かれた。



「……誰だ?」


警戒を滲ませながら、リーマスはゆっくりと扉を開けた。


そこに立っていたのは、長い銀髪とひとつにまとめた白い髭。深い青のローブを纏い、優しく微笑む人物――ホグワーツの校長、アルバス・ダンブルドアだった。


「おお、久しぶりじゃのう、リーマスよ」



その声は、何も変わっていなかった。時の流れがあの日のまま止まっていたかのように。



「……ダンブルドア……?一体……と、とりあえず、中へどうぞ」



突然の訪問に驚きつつも、リーマスは慌てて部屋に招き入れた。久しぶりの会話に喉が渇き、声が少し上ずる。


伸び切った髪を手ぐしで撫でつけ、散らかった羊皮紙と古書をダイニングテーブルから慌ただしく片づけると、唯一ぐらつかない椅子を引いて勧めた。



「どうぞ……あまり、快適とは言えませんが」


「いやいや、気にせんとも。わしにはこれくらいがちょうどよい」



ダンブルドアは椅子に腰を下ろし、座面が少しきしむと、「ほほう、これはおもしろい椅子じゃな」と笑った。

愉快そうなその様子に、リーマスは顔を赤らめ、湯気の立つ紅茶を手渡した。



「それで……今日は、一体どうなさったのですか?」


「ふむ、まぁ、そう急かさんでも。まずは――」

「私にそんな余裕はありません、ダンブルドア」


思わず口を突いて出た言葉に、リーマス自身が息を呑んだ。
失礼だった。それはわかっていた。

だが、感情の波は抑えきれなかった。


満月が近づいているせいかもしれない。そう自分に言い訳する。



けれど、ダンブルドアは変わらぬ優しさを湛えた瞳で、静かに彼を見ていた。その優しさが、かえって痛かった。
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