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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第17章 折れた杖と残されたもの



キングズ・クロス駅に着き、蒸気が白く立ちこめる中、生徒たちはそれぞれ家族のもとへ駆けていった。



そんな人波の向こうで――。
「……チユ」


名前を呼ばれて振り返ると、ゼロ・グレインが立っていた。
光の差すホームの中で、彼の黒髪がひときわ目を引く。

相変わらず周囲の生徒たちの視線を集めていたが、ゼロの青い瞳はまっすぐにチユだけを見ていた。


「無事で、よかった」


短く、それだけを言う。

その声にほんの少し震えが混じっていることを、チユは聞き逃さなかった。
まるで――失うことを怖れていた者だけが持つ、かすかな影。


「……うん」
そう答えたものの、胸がきゅうっと締めつけられる。


(今年も言えなかった……羽根のこと、ほんとの私のこと……)


秘密を抱えたまま笑っている自分が、少しだけ苦しかった。



「夏休みの間……また、手紙を書いてもいい?」
ゼロが少し視線を落とし、けれどどこか期待を滲ませて問いかける。


「もちろんだよ、私もいっぱい書くね」


チユは笑顔を作って頷いた。
けれどその笑顔の奥に、ほんの少し切なさが滲んでいた。


ゼロは安心したように微笑み、そっとチユの頭に手を置いた。
「また、9月に。君が笑って戻ってくるのを待ってる」


スーツケースを片手に去っていく背中を見つめながら、チユは思わず胸に手を当てた。
夏の太陽よりも熱く、でもどこか淡い痛みを残す鼓動が、そこにあった。



「――おやおや」
わざとらしい咳払いが耳元で響いた。



振り返ると、いつの間にかフレッドとジョージが立っていて、にやにやと揃った笑顔を浮かべている。


「いやぁ、感動的なシーンだったなぁ。ゼロ・グレイン見事にキメてたね」
「完璧な王子様ムーブだったじゃないか、なぁフレッド」


「や、やめてよ!」


慌てて否定するチユの頬は真っ赤。
だが、双子は容赦なく畳みかけてくる。
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