第17章 折れた杖と残されたもの
「やはり、トム・リドルはホグワーツ始まって以来の最高の秀才じゃった。50年前、わしはここで彼を教えたが、あれほど頭の切れる生徒は他におらん」
言葉に重みがあり、部屋全体が息をのんだ。
ダンブルドアは次に、事情が飲み込めず呆然としているウィーズリー一家に向き直る。
「ヴォルデモート卿がかつてトム・リドルと呼ばれておったことを知る者は、ごくわずかじゃ。卒業したのち、彼は姿を消し、旅に出て……やがて闇の魔術にどっぷりと沈み、忌まわしい者たちと交わり……そして幾度も自らを変貌させ、再び現れたときには、あの聡明で端正な少年の面影は1つも残ってはおらなんだ」
マクゴナガルは唇を固く結び、腕を抱え込んでいる。
彼女の眼差しは厳しくも震えていて、50年前に同じ学び舎を歩いていた少年を思っているのだと、チユは直感した。
「……そんな」
モリーが掠れた声を出す。
「この子が……ジニーが……そのヴォルデモートに……?」
ジニーが泣きじゃくる肩を抱きしめながら、チユは小さく首を振った。
「違うんです。ジニーは騙されただけ。ほんとうに、何も悪くないんです」
ハリーが深く頷いた。
「チユの言う通り。ジニーは……ずっと闘ってたんだ」
その瞬間、ジニーの指がチユのローブをぎゅっと掴んだ。
小さな震えが伝わってくる。
「…その人の、に、日記なの!」
ジニーがしゃくりあげながら口を開いた。
「あたし、ずっと、その日記に書いてたの。そうしたら、その人が……リドルが……返事をくれたの、毎日、ずっと……」
「ジニー!」
アーサーおじさんが蒼白な顔で叫んだ。
「おまえにいつも言っていただろう!どうしてママかパパに見せなかったんだ? そんな怪しげなものには、闇の魔術が詰まっているに決まっているのに!」
ジニーはさらに肩を震わせ、涙をこぼした。
「あたし……知らなかったの。ママが用意してくれた教科書の中に、これが挟まってたの。ただ、誰かが忘れていったんだって思って……!」
――胸が締めつけられる。
チユは思わずジニーの手を握りしめた。冷たい。
(ジニーはただ、信じただけ……優しい子だから。誰だって罠だなんて気づけないよ)