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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第16章 静寂の先に潜むもの



ハリーはかがみ込み、頭上に伸びる暗いパイプを見上げる。
「どうやって上まで戻るか、考えてた?」


ロンは首を横に振った。


(私の羽根でなら上まで戻れる……でも、みんなに知られるのは怖い……)


すると、不死鳥のフォークスがすうっと飛び出して、ハリーの前に舞い降りた。
羽を大きく広げ、賢そうな丸い目を光らせ、長い金色の尾を振っている。



「……つかまれって言ってるように見えるけど」ロンが当惑気味に言った。


チユは息をのんでフォークスを見つめた。
折れた杖を握りしめる手に、ほんの少しだけ温もりが戻ってくる。



「でも……鳥に引っ張らせるには、重すぎるんじゃない?」


「フォークスは普通の鳥じゃない」
ハリーははっとしたように顔を上げ、皆に言った。



「ジニー、俺の手につかまれ!」ロンが妹に力強く呼びかける。
「それから……ロックハート、あんたはジニーの反対側だ」


「えっ、わたしかね?」ロックハートは目をぱちくりさせた。


「先生のことだよ!」ロンは苛立ち混じりの声を上げる。

「しっかりしてくれよ。ここで置いていくわけにゃいかないんだから!」



フォークスの金色の尾羽が目の前で揺れている。
(……大丈夫。みんなで繋がっていれば……きっと、上へ戻れる)



「チユも、しっかり掴まって!」ハリーが振り返り、真っ直ぐな目で言った。


「うん……」
小さく頷いて、チユはハリーのローブの背にしがみついた。
掌に当たる布が、思ったよりも温かかった。


ハリーは剣と組分け帽子をベルトに挟み、深く息を吸う。
そしてフォークスの尾羽にしっかりと手を伸ばし、掴んだ。


瞬間――。


全身がふっと軽くなった。

ヒューッという音とともに、冷たい風が吹き抜ける。
チユたちはパイプの中を、まるで羽根のように上昇していた。


「わぁっ……!」
思わず声を上げるチユ。

恐怖と興奮が入り混じり、心臓が喉まで跳ね上がる。


下から、ロックハートの呑気な声が聞こえてきた。
「すごい!すごいじゃないか!まるで魔法のようだ!」


「魔法そのものだよ!」チユは思わず叫び返した。
折れた杖を抱きしめたまま、胸にほんの少し温もりが戻るのを感じていた。


――やがて、急な上昇はあっけなく終わる。
彼らは嘆きのマートルのトイレの湿った床に、どさりと着地した。

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