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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第16章 静寂の先に潜むもの



その肩を、誰かが強く抱いてくれた。


「大丈夫だよ」


ハリーだった。
血に濡れ、苦しいはずなのに、その目は真っ直ぐで揺らいでいなかった。



「チユが居てくれて良かった。呪文を放って、僕を生かしてくれたのは君だよ。杖が折れても、それは消えない」



その言葉に、わずかな光が差したのをチユは確かに感じた。


――そのとき。


「う……」
秘密の部屋の隅からかすかなうめき声が聞こえた。ジニーが動いていた。



「ジニー!」
ハリーは駆け寄り、チユも慌てて後を追った。



ジニーは身を起こし、とろんとした目でバジリスクの巨大な死骸を見やり、次にハリーの血に染まったローブに目をやった。

そして、ハリーの手にある日記を見た途端、身震いして大きく息をのんだ。


「ハリー……あぁ、ハリー!あたし、朝食のときに打ち明けようとしたの。でも……パーシーの前では言えなかったの。あたし……わたしがやったの……でも、そんなつもりじゃなかった!リドルが……リドルがあたしに乗り移って……そのあと……何も覚えてないの!どうやって、どうやってあんな怪物をやっつけたの……?リドルはどこに……?」


「もう大丈夫だよ」
ハリーは日記を持ち上げ、その真ん中の毒牙で焼かれた穴を見せた。


「リドルはおしまいだ。見てごらん。リドルも、バジリスクも倒したんだ。……もう安心していい」


「……でも……あたし……退学になるわ!」
ジニーはしゃくりあげながら言った。


「あたし、ビルがホグワーツに入ってからずっと……この学校に来るのを楽しみにしていたのに……。もうだめだわ……パパもママも……」



そのとき、頭上をフォークスが羽ばたいた。
柔らかく温かな光が3人を包む。

鳥の歌声に、チユの胸に残った小さな灯が、ほんの少し大きくなった。



ハリーはジニーを立ち上がらせ、チユにも目を向けた。
「行こう、2人とも。ここを出よう」


3人は死んだバジリスクのとぐろを越え、トンネルの薄暗がりに足を踏み入れた。
背後で石の扉がシューッと低い音を立てて閉じていく。
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