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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第16章 静寂の先に潜むもの



「……君も孤児だったな。チユ・クローバー、自分の魔力の強さに……依存し、恐ろしさを感じているはずだ。僕たちはよく似ている。君もいずれ、こちら側に来るだろう。必ず……」



ぞくりと背筋を氷の刃で撫でられたように、チユは立ち尽くした。


「やめて……!」思わず唇から漏れた。
だが、ハリーにはその声は届かなかった。



リドルの言葉は、まるで毒のように心に染み込んでくる。


私は……孤児……。

守ってくれる親なんて、いない。
リーマスが拾ってくれるまで……ずっと、ひとりぼっちだった。



胸の奥に、ずっと隠してきた痛みがぞわりと浮かび上がる。
孤独。恐怖。
そして——。

魔法がなかったら、自分は……ただの無力な子。
杖を落としたら、何もできない。

何度もそう思った。


(リドルの言うとおり……自分の魔力に……依存している)



チユの手が小刻みに震えた。
足元からじわじわと暗闇が這い上がってくるようで、体が重く、動けなくなる。


「チユ?」

ハリーの声が遠くから届く。
けれど、その声さえ霞んでいく。



(……もし私が、リドルみたいになったら……?
誰も止められなかったら……?)


頭の中で、恐ろしい幻がよぎった。
自分が知らないうちに人を傷つけている姿。

杖を振るたびに恐怖され、やがて孤立し——リドルのように影に成り果てていく未来。


チユの指が震える。
その瞬間——。


ぱきん、と乾いた音が鳴った。
手の中で、自分の杖が真っ二つに割れていた。


まるで「心と共鳴するように」折れてしまった。



「……あっ……」

目を見開く。
折れた木片が掌から滑り落ち、床に転がった。


それは自分で枝を削って作った、粗末な杖。
今まで壊れなかったことの方が不思議なくらいの品。


「やだ………」
チユの声は涙に濡れて震えた。



折れた杖を見つめるうちに、胸の奥で何かが一緒に砕けていく。
私にはもう……何もない。


心臓が空っぽになったような感覚。
魔法がなければ、自分の存在すら揺らいでしまう。



チユは膝をつき、折れた杖を抱きしめた。
涙が止めどなくこぼれる。


その肩を、血に濡れたハリーが必死に支えた。
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