第16章 静寂の先に潜むもの
「チユ…大丈夫……!?」
ハリーの必死の声が広間に響く。
その時、尾が組分け帽子を吹き飛ばし、布切れのようにしてハリーの腕へと叩きつけた。
ハリーはそれを掴み、絶望の中でかぶる。
チユは、すぐ傍らで震えながらも再び叫んだ。
「お願い……彼に力を……!」
次の瞬間、帽子の中から眩い光が弾けた。
ごつごつとした銀の柄をハリーの手が掴む。
抜き出された剣の先端には、幾つものルビーが燃えるように輝いていた。
「グリフィンドールの剣だと……?そんなはずは——」
言葉を遮るように、バジリスクが床を震わせながら迫ってきた。
ハリーは剣を構えるが、両手は震えていた。
「ハリー!」
チユが叫ぶ。
「私が囮になるから、その隙に……!」
「駄目だ、チユ——危険すぎる!」
しかし、バジリスクはもう目前に迫っていた。
リドルの高笑いが石造りの壁に反響する。
チユは恐怖で泣きそうになりながらも、杖を振り上げた。
「ステューピファイ!」
閃光が蛇の鼻先をかすめる。
巨体が一瞬ひるみ、フォークスの歌声が響いた。
「今よ!ハリー!」
バジリスクの大きな口が開き、毒牙が光る。
チユは必死にもう一度叫ぶ。
「アグアメンティ!」
水の奔流が蛇の顔を直撃し、盲いた怪物は一瞬だけ進路を見失った。
その刹那、ハリーは全身の力を振り絞り、剣を振り上げて突進した。
銀の刃が弧を描き、バジリスクの口内深くへ突き刺さる。
「——ッッッ!!」
凄まじい悲鳴とともに、怪物がのたうった。
床が揺れ、天井の石片が崩れ落ちる。
チユは咄嗟に「プロテゴ!」を展開し、ハリーを庇う。
崩れ落ちた石が魔法の膜に弾かれ、2人の頭上をかすめて砕け散った。
ハリーの手には、深々と蛇の体に刺さった剣が握られている。
だが同時に、長く鋭い毒牙がハリーの腕に突き刺さっていた。