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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第16章 静寂の先に潜むもの



リドルが口を開こうとしたその瞬間――彼の顔が凍りついた。
どこからともなく、音楽が流れてきたのだ。



ぞくりとするような旋律だった。


美しくも怪しく、背筋をなぞる冷たい指のように、石造りの広間を震わせて広がっていく。
チユは息を止めた。心臓の鼓動が旋律に合わせて乱れ打つ。



「……なに、これ……」
声に出すのがやっとだった。



音はどんどん大きくなり、重く、鋭く、空気を振るわせる。
ハリーも顔をこわばらせ、毛がざわりと逆立つのが見えた。


チユの耳には、その旋律が骨の奥まで染み込んでくるように響き、震えを止められない。


そして――。


柱の頂から、炎がぱっと燃え上がった。
次の瞬間、炎の中から深紅の鳥が現れたのだ。


白鳥ほどの大きさのその鳥は、金色の尾羽を孔雀の羽のように広げ、広間をまばゆく照らし出した。
くちばしは鋭く、爪は光を宿し、その姿は威厳に満ちていた。
だが同時に、その羽音と旋律には、どこか温かなものが宿っている。



「……きれい……」
気づけば、震える声でつぶやいていた。


鳥は不思議な歌を響かせながら降下し、ぼろ布のような包みを抱えたままハリーの足元にそれを落とした。
そして彼の肩に止まり、その体温を伝えながらじっとリドルを見すえた。



「不死鳥だな……」リドルの声が鋭く広間を裂いた。「フォークスか?」



「そして、それは――」
リドルの目が、足元のぼろ布に向けられる。
「古い組分け帽子だ」


確かに、足元にはほつれた古びた帽子が落ちていた。
継ぎはぎだらけで、今にも崩れそうなそれは、どう見ても武器には見えない。


リドルが高笑いをあげる。
その笑い声は不気味に反響し、まるで10人ものリドルが広間で笑っているかのようだった。


「ハッ……!ダンブルドアが寄越した護衛がこれか!歌い鳥と古帽子!どうだハリー・ポッター、心強いだろう?」
嘲笑が重苦しい空気を満たす。



だが、チユの胸の奥では、別の感情が芽生えていた。
恐怖に震えていた心に、フォークスの歌がほんの少し勇気を注いでくれていた。

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