第16章 静寂の先に潜むもの
リドルはゆっくりと微笑を浮かべたまま、声を落とした。
「そこで僕は、ジニーに自分の遺書を壁に書かせ、ここに下りてくるよう仕向けた。泣き叫び、わめき散らすばかりで退屈だったが……もう彼女の命はほとんど残されていなかった。あまりにも日記に注ぎ込んでしまったからだ。つまり――この僕に、ね」
チユははっとして息をのんだ。
リドルの周囲にただよう冷気に、胸がざわつく。
「おかげで僕は、ついに日記から抜け出すことができた。ジニーがここに来てからずっと、君が現れるのを待っていた。君なら来るとわかっていたのさ、ハリー・ポッター」
「何を聞きたいって言うんだ」
ハリーが吐き捨てるように言う。
「そうだな」リドルは柔らかな口調で続けた。
「これといって特別な力もない坊やが、どうやって不世出の魔法使いを打ち倒したのか。ヴォルデモート卿の力を砕いたのに、君は額に一つの傷を負っただけで生き残った。どうしてだろうな?」
赤い光が彼の瞳にちらつく。
その視線に射抜かれ、チユは無意識に一歩退いた。
「……僕がなぜ生き残ったのか、それが君にとってそんなに大事なことなのか?」
ハリーの声は硬く震えている。
その瞬間、リドルの笑みが深まる。
「ヴォルデモートは……僕自身だ」
彼はハリーの杖を掲げ、空中に文字を描き出した。淡い光が揺らめき、三つの名が浮かび上がる。
TOM MARVOLO RIDDLE
(トム・マールヴォロ・リドル)
そして杖をひと振りすると、文字はゆっくり並び替えられていった。
I AM LORD VOLDEMORT
(俺様はヴォルデモート卿だ)