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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第2章 秘密の夏休み




「わぁ……」チユは思わず口を押さえた。


彼らの様子を見ながら、最初は手伝おうと意気込んでいた気持ちが、じわじわと萎んでいく。


――怖がってるわけじゃない。でも、あの小さな存在をぐるぐる振り回して、投げ飛ばすなんて。

彼らが本気で傷つけていないのはわかるけれど……
それでも、どこか可哀想な気がした。


チユはそっと庭の端の方に腰を下ろした。


その横で、小人がひとり、ぐるぐる目を回しながらヨロヨロと立ち上がったが、方向がわからないのか、また同じ茂みに突っ込んでいった。


「チユ、見ててごらんよ、今度こそ飛ぶぜ~!」
フレッドが叫び、また新たな小人を振り回す。


「次はホグズミードまで飛ばすぞ!」
ジョージが言うと、双子はケラケラ笑い合った。



チユは、そんなにぎやかな兄弟たちの様子を、どこか呆れながら、でもほんの少し口元を緩めて見守っていた。


ちょうどその時、玄関のドアがパタンと乾いた音を立てて閉まった。


「親父が帰ってきた!」
ジョージが弾かれたように声を上げた。


それを合図に、チユたち5人は顔を見合わせ、あわてて庭を駆け抜けた。
土の匂いを踏みしめるようにして、バラバラと足音を響かせながら玄関へと飛び込む。

台所にたどり着くと、アーサーおじさんがちょうど、くたびれた様子で椅子に腰を下ろしたところだった。眼鏡を外し、緑のローブの裾にはうっすらと旅の埃がついている。


「ひどい夜だったよ……」


落ち着いた声で、しかしどこか呆れたように、アーサーおじさんは言った。

子どもたちがテーブルの周りにわらわらと集まり、チユもジョージの隣にちょこんと座る。
そっとアーサーおじさんの顔を覗き込むと、その目元には疲れが滲んでいた。


「9件も抜き打ち調査だよ。9件だぞ、まったく……」


彼はお茶のポットを探しながら、愚痴とも独り言ともつかない口調で続けた。


「マンダンガス・フレッチャーのやつめ、私がほんのちょっと後ろを向いたすきに、呪いをかけようとするんだから……」


お茶の湯気がほわりと立ちのぼり、ウィーズリー氏はゆっくりひと口すすった。


「……大丈夫ですか?」

チユは、そっと尋ねた。無意識に膝の上で手を組み、じっと見つめる。


「おや、ありがとう。チユは優しい子だね」
アーサーおじさんは少しだけ口元を緩めた。

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