第16章 静寂の先に潜むもの
チユは細長く奥へと伸びる、薄暗がりの広間の端に立っていた。
天へと果てしなくそびえる石の柱が林立し、絡み合う蛇の彫刻が、そのうろこを幽かに緑の光に浮かび上がらせている。
天井は闇に溶け、見えない。
ひんやりとした空気が肌にまとわりつき、胸の鼓動は早鐘のようだった。
(……ここにいる。バジリスクが、そしてジニーが……)
杖を握る手が汗ばむ。
静けさは墓場のようで、柱の影の奥から何かがこちらをうかがっている気がしてならなかった。
蛇の彫像の目が闇にぎらりと光ったように見え、チユの喉がひゅっと鳴った。
隣に立つハリーの肩が、わずかに震えているのが伝わってくる。
チユは胸の奥にこみあげる恐怖を押し込めるように、唇を噛みしめ、小さくつぶやいた。
「……大丈夫……大丈夫…絶対に大丈夫……」
それは自分自身に言い聞かせた言葉だった。
けれど、すぐ横でハリーがそっとチユの手を握った。
驚いて顔を上げると、ハリーはまっすぐに頷いた。
「絶対に見つけ出そう、ジニーを」
その眼差しに、チユの胸のざわめきが少しだけ静まる。
2人は互いに指先を離さず、肩を並べて一歩一歩進み出した。
靴音が冷たい壁に反響し、幾重にも重なって響く。
蛇の彫像の虚ろな眼が、2人を追っているかのように思えて、チユはごくりと喉を鳴らした。
最後の柱を抜けた先――。
壁際にそびえる巨大な石像。その灰色の足元に、赤毛が鮮烈に転がっていた。
「ジニー!」
ハリーが叫び、駆け出した。
チユも遅れて追い、共に膝をついて小さな体を抱き起こす。
冷たい。顔は雪のように白く、目を閉じたまま微動だにしない。
「ジニー!頼む、目を開けて!」
ハリーは必死に呼びかける。
チユもその肩を揺さぶり、声を震わせた。
「だめだよジニー……こんなところで……。わたしたち、迎えに来たんだから……!」
けれど返事はなかった。首がだらりと垂れ、その無力さが2人の心を締め付けた。
「……死んじゃだめ、お願い……」
チユの涙がぽたりとジニーの頬に落ちた瞬間――。
「その子は、もう目を覚ましはしない」
広間に低い声が響いた。
チユとハリーは同時にぎくりと肩を跳ねさせ、声のした方へ振り向いた。
そこに立っていたのは、1人の少年だった。