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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第15章 秘密の部屋




「……先に降りて」チユが低く言った。
声は震えていたが、その瞳は決して逸らさなかった。


「き、君たち……そんなことをして、いったい何になるんだね?」ロックハートは後ずさった。


「役に立つか立たないかは、降りたあとで決まるの」チユはきっぱり言い、杖を軽く振ってロックハートの背をつついた。


観念したように、ロックハートはパイプの縁に腰を下ろし、最後まで愚痴をこぼしながらも、ずるずると闇の中へ落ちていった。


「行こう」チユは自分に言い聞かせるように呟き、すぐ後に続いた。


ぬるぬるとした冷たい闇の滑り台に体を投げ出した瞬間、風が一気に頬を切り裂き、息が詰まった。


パイプは果てしなく曲がりくねり、右へ左へと急旋回を繰り返す。背中を打ちつけ、肩を壁に擦りながら落ちていく感覚は、恐怖と吐き気を同時に呼び起こした。


何度目かの急カーブで、後ろからロンがぶつかってきた。
ドスン、と鈍い衝撃が腰を打つ。

「ご、ごめん!」後ろから聞こえたまぬけな声に、チユはかすかに笑いをこぼした。


底が見えない暗闇の恐怖に押し潰されそうだったが、わずかなやり取りが心を繋ぎ止めてくれた。


やがて傾斜が緩み、チユの体は勢いよく投げ出された。
ドスン――!
じめじめした石の床に叩きつけられ、肺の中の空気が一気に押し出される。



「っ……!」苦しさに胸を押さえて起き上がると、冷たく湿った闇のトンネルが広がっていた。


ロックハートは少し離れたところで、泥まみれの顔を青ざめさせて立ち尽くしている。
続けてハリー、ロンも降りてきた。



「ここ……学校の何キロも下だよな」ロンが息をのむように言った。
「湖の下……たぶん」ハリーが壁を照らしながら応じる。


「ルーモス!」チユは杖を掲げた。柔らかな光が闇を押しのけ、冷たい岩肌を淡く照らす。
湿った壁に伸びた自分たちの影が、不気味に揺れ動いた。


「行こう」ハリーの声が低く響き、4人は足を進める。


水を踏むたびに、ピシャッ、ピシャッと音が響き渡る。
チユは心臓の鼓動を感じながら、ふとハリーの声に耳を傾けた。


「みんな……何かが動く気配を感じたら、すぐ目を閉じるんだ」


重苦しい沈黙が落ちた。
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