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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第15章 秘密の部屋



普通の手洗い台にしか見えなかった。
だが隅々まで調べるうち、チユの目に小さな傷跡が映った。


蛇口の脇に、細い爪で彫られたような――蛇の模様。


「……これ……」チユは震える指先で触れた。
金属は冷たく、どこか禍々しい感触を帯びている。


「その蛇口、壊れっぱなしよ」マートルが得意げに言う。


「ハリー、なんか言ってみろよ。蛇語でさ」ロンが促した。


ハリーはためらいながら、じっと蛇の彫刻を見つめた。
「開け」


だが、普通の言葉だった。ロンがすぐに首を振る。


「違う、普通に聞こえたぞ」


チユは祈るような気持ちでハリーを見つめた。
(お願い……本当に、ここが入口であって……!)


ハリーは深呼吸し、再び彫刻を本物の蛇だと強く思い込んで囁いた。


その瞬間、彼の口からはシューシューとした不気味な音がこぼれ落ちた。
蛇口がぎらりと光り、まばゆい白に包まれる。


ごごご、と低い音が響き、床が震えた。


手洗い台が沈み込み、回転しながら消え去ると、そこには大人1人がすべり込めるほどの巨大なパイプが口を開けていた。


チユはごくりと唾を飲み込み、穴をのぞき込んだ。

底は真っ暗で、どこまで続くのかまるでわからない。
冷たい風が吹き上がり、頬をなぞった。



「僕は……ここを降りて行く」ハリーが言った。


チユは息を詰め、彼の背中を見つめた。


胸の奥では恐怖が暴れるように渦巻いていた。
けれど、その恐怖を押し殺すように――彼女は強く呟いた。



「……もちろん、わたしも行くよ。ジニーを助けなくちゃ」


その声は震えていたが、決して揺らいではいなかった。

ジニーがまだ生きているかもしれない――そのわずかな可能性が残されているなら、ここで立ち止まる理由はどこにもなかった。



「僕も行く」ロンが決意の色を帯びた声で言う。


ロックハートだけが、うすら笑いを浮かべた。
「さて……私はここまで、でいいんじゃないかな。髭はなくても英雄は務まるしね?」


そう言ってドアノブに手を伸ばそうとした瞬間、チユは無言で杖を突きつけた。
ロンもハリーも同時に構え、3人の眼差しに射すくめられたロックハートは、蒼白になって足をすくませる。

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