第15章 秘密の部屋
ロックハートは、無理やり先頭に立たされて女子トイレに入った。
肩をすくめ、杖を奪われたその姿は、もはや英雄ではなく情けない亡者のようだった。
チユはそんな彼を見やりながら、(ジニーを助ける気なんて、これっぽっちもないんだ…)と、胸の奥でひそかに思った。
トイレの奥、小さな水の滴る音の中に、ひときわ甲高い声が響いた。
「……あら、また来たの」
嘆きのマートルが水タンクの上から身を乗り出し、じろりとチユたちを見下ろした。
透き通る顔に、どこかうれしそうな笑みが浮かんでいる。
「マートル、お願い。……あなたが死んだ時のこと、教えてくれる?」チユは思いきって声をかけた。
その言葉に、マートルの顔がぱっと輝いた。
「まあ!そんなことを聞いてくれるなんて!」
彼女は胸を張り、まるで自分の死が最高の勲章であるかのように語りだした。
「ここだったの。この小部屋で死んだのよ。あのオリーブ・ホーンビーが、わたしの眼鏡をからかったから……泣いて隠れていたの。鍵をかけていたら、誰かが入ってきて――変な言葉を話していたわ。外国語みたいな。しかも男の子の声!頭にきたから出て行けって言ってやろうと、ドアを開けたの。そしたら――」
マートルは胸をそらし、目を見開いた。
「死んだの」
ぞくりとするほど誇らしげに言うその声に、チユの背筋が震えた。
「……どうやって?」ハリーが身を乗り出して聞く。
マートルは急に小さな声になった。
「わからない。ただ、大きな黄色い目玉を2つ見たの。全身がぎゅっと締めつけられて、次の瞬間には……ふわっと浮いて……」
彼女の視線はどこか遠く、夢見るようだった。
「でもね、わたし戻ってきたの。だって、オリーブを呪ってやらなきゃ気がすまなかったから!ふふっ、彼女、ずいぶん後悔してたわよ。わたしの眼鏡を笑ったことを」
チユは唇を噛み、震える手を胸に押さえた。
「その目玉……どこで見たの?」ハリーが続ける。
「そこよ」マートルはふわりと飛び、手洗い台の前を指さした。
3人は駆け寄った。
ロックハートは青ざめ、壁にへばりつくように下がっている。