第15章 秘密の部屋
「『闇の魔術に対する防衛術』の先生じゃありませんか!」ハリーが声を張り上げた。
「こんな時に逃げ出すなんて、おかしいでしょう!ここで闇の魔術が起きているんですよ!」
「いや、しかしですね……」ロックハートはソックスの山をローブの上に押し込みながら、しどろもどろに言った。
「職務内容には、こんなことは……予想だにしておりませんで……」
「先生、逃げるつもりなんですか?」ハリーが詰め寄る。
「ご自分の本で、あんなにたくさんの怪物を倒したって書いてたじゃないですか!」
「本は……誤解を招くものです」ロックハートは苦々しげに言った。
チユは思わず一歩前へ出て、小さな声で尋ねた。
「……じゃあ、先生がやったことじゃ、ないの?」
ロックハートは彼女を見ようともせず、わざとらしく肩をすくめた。
「まあまあ、お嬢さん。本には真実もある。けれど、それを成し遂げたのは――私じゃない。ほかの者たちです」
「……!」チユは目を見開いた。胸がひどくざわめく。
あれほど堂々と語っていた英雄譚が、ただの盗み物だったなんて――。
ロックハートは続けた。
「私は彼らの話を聞き出し、それをどう退治したかを学ぶ。そして『忘却術』で記憶を消す。そうすれば、彼らは自分の手柄を忘れ、代わりに私の名が残る。……自慢できるとすれば、完璧な『忘却術』くらいですね」
ロンが顔を真っ赤にした。
「卑怯だ!そんなの――」
だがロックハートは意に介さず、最後のトランクをバチンと閉め、鍵をかけた。
「さて、荷物はそろった。残るは1つだけ」
彼は杖を抜き、3人に向けた。
「坊やたち、いや――お嬢さんも。気の毒ですが、『忘却術』をかけさせてもらいます。私の秘密が漏れては困る。そうなれば、本が1冊も売れなくなりますからね」