第14章 アラゴグ
暖炉の火は燃え尽き、灰になった残り火がわずかに赤く光っている。
彼らはマントを脱ぎ、ソファに座り込んだ。
ロンは倒れ込み、顔をクッションに押しつけた。
「……もう一歩も動けない……」
チユも端に腰を下ろし、杖を胸に抱いて目を閉じた。
まぶたの裏に浮かぶのは、牙と脚と闇の群れ。思わず小さな声が漏れる。
「……まだ耳に、カサカサ聞こえる気がする……」
ハリーだけは真剣な顔で、アラゴグの言葉を一生懸命に考え込んでいた。
――城のどこかにひそむ怪物。
――襲った者を石にする。
――ハグリッドさえ知らない『秘密の部屋』の正体。
ハリーはハッと立ち上がった。
「ロン!チユ!」
「死んだ女の子のこと」
ハリーは声をひそめて言った。
「アラゴグは、あの子がトイレで見つかったって言ってた」
チユとロンがきょとんとした顔でハリーをじっと見つめる。
疲労で頭が全く動いていなかった。
「もし、その子が……それから一度もトイレを離れなかったとしたら?まだそこにいるとしたら?」
ロンは目をこすり、月明かりに照らされた顔に眉根を寄せる。そして、ゆっくりと、しかし確信めいた響きで言った。
「……まさか。『嘆きのマートル』?」
小声で呟いたその声には、恐怖と同時に、答えを見つけた安堵も滲んでいた。