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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第14章 アラゴグ



恐怖で凍りついていた蜘蛛の群れも一瞬たじろぎ、その隙にチユは飛び込むように車内へ転がり込んだ。
ドアがバタンと閉まり、車はエンジンを唸らせて発進した。


荒れ狂う森を突っ切りながら、ハリーが振り向く。
「チユ……今の、なに?」


チユは胸を上下させながら、必死で笑みを作った。
「素敵な呪文でしょう?」


ロンは蒼白なまま、しかし唇を震わせながら笑った。
「……僕は一生クモのタップダンスが夢に出ると思う」


チユは小さく肩をすくめ、杖を膝の上に置いた。
その笑顔は恐怖で強張っていたが、ハリーとロンにとってはずっと頼もしく見えた。


森の下生えをなぎ倒しながら車は突進した。
ファングは後ろの席で大声で吠えている。

大きな樫の木の脇を無理やりすり抜けるとき、サイドミラーがポッキリ折れた。


ガタガタと騒々しい十分間が過ぎたころ、木立がややまばらになり、茂みの間から月明かりに照らされた空が見えた。


車が急停止し、3人はフロントガラスにぶつかりそうになった。
森の入口にたどり着いたのだ。


ファングは早く出たくて窓に飛びつき、ハリーがドアを開けてやると、しっぽを巻いたまま、一目散にハグリッドの小屋を目指して駆けていった。



「……まだ首が動かない」
ロンはぎこちない声で言いながらも降りてきた。


チユもよろよろと外に出ると、膝から力が抜けるように草むらに座り込んだ。杖を抱きしめ、胸を大きく上下させて息を整える。


ハリーが感謝を込めて車のボンネットをなでると、車はまた森の中へとバックしていき、やがて姿を消した。


ハリーは透明マントを取りに小屋に戻った。
ファングは寝床のバスケットで毛布をかぶって震えている。


外に出ると、かぼちゃ畑の隅で、ロンが胃の中身を吐き出していた。
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