第14章 アラゴグ
「学校中の人が……ハグリッドが怪物をけしかけて、生徒を襲わせたと思ってるんです!だから捕まって、アズカバンに……」
その言葉にアラゴグは激しく脚を打ち鳴らした。
ガチャガチャという音がくぼ地に響き渡り、それに応じて周囲の蜘蛛たちも一斉に鞘を鳴らす。
――それはまるで拍手喝采のよう。
だが、チユの耳には不気味な戦慄として響いた。
「それは昔のことだ!」
アラゴグの声が、地の底から響くように低く轟いた。
「何年も、何年も前のこと……わしは覚えておる。ハグリッドは追放された。わしが『秘密の部屋』の怪物だと、誰もかれも思い込んだからだ!」
チユは思わず、両手で耳を塞ぎたくなる衝動に駆られた。
「じゃ、じゃあ……あ、あなたが『秘密の部屋』から出てきたわけじゃ、ないの……?」
自分でも情けないほど震えた声が、夜気に吸い込まれる。
「わしが!」
アラゴグは怒り狂い、脚をガシャリと振り鳴らした。チユは思わず体をすくめ、後ろに尻もちをついた。
「わしはこの城で生まれたのではない!旅人が卵をハグリッドに託したのだ。少年だったハグリッドは、わしを隠し、食べ物を集めて育ててくれた。ハグリッドはわしの親友だ。いいやつだ……」
アラゴグの濁った声には、愛情が滲んでいた。
チユは一瞬だけ、その感情に胸を揺さぶられる。
「でも……でも、あなたは人を襲ったことはないんですか?」
ハリーが勇気を振り絞って問いかける。
「一度もない!」
アラゴグは唸るように答えた。
「わしは本能として肉を求めるが、ハグリッドの名誉のため、人間には決して牙を立てなかった!あの少女の死体はトイレで見つかった……わしには何もできぬ!」
ロンは喉をゴクリと鳴らした。
チユはハリーの袖を掴み、震える声を絞り出す。
「じゃあ……じゃあ、何がその子を……?」
答えを待つ間にも、周囲の蜘蛛がじわじわと迫ってくる気配がした。
長い肢がこすれ合い、ザワザワと森の奥の風のように響く。