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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第14章 アラゴグ



ふいに、ファングが大きく吠えた。
森全体にこだまが広がり、チユは思わず胸を押さえる。


「な、なんだ!?」ロンが半ば悲鳴のような声を上げ、真っ暗闇を見回しながらハリーの腕をつかんだ。


「……動いてる。あっちだ」
ハリーが息を潜める。


耳を澄ますと、右手の奥から――。
バキバキッ、メリメリッ、と木の枝がへし折れる音。
何か、とてつもなく大きなものが、森を突き進んでくる。



「もうダメだ……もうダメ、もうダメ、ダメダメだぁ……!」
ロンの声がどんどん高くなる。


「しーっ!」ハリーが必死で口を押さえた。
「声を出さないで、聞こえる!」


「もう聞こえてるよ!」ロンの声は裏返っていた。「ファングの大声でとっくにバレてる!」


チユは喉がひりつくほどに息を詰め、闇を凝視しながら杖を握りしめる。
重苦しい黒が目の前に迫ってきて、押しつぶされそうになる。


緊張に凍りついたまま、三人は固まる。
その時だった。

――パッ!!


右手に閃光が走り、闇が白く裂けた。

眩しさに思わず手で目を覆う。
ファングは悲鳴のような声をあげ、藪に絡まってジタバタ暴れた。


「ハリー!!」ロンが叫ぶ。その声は、さっきまでの怯えが嘘のように弾んでいた。
「僕たちの……車だ!!」



「えっ!?」チユは目をぱちくりさせた。


ロンは一目散に光の方へ走り出す。
ハリーとチユもつまずき転びそうになりながら必死で追いかける。


そして――開けた場所に飛び出した。


ヘッドライトを煌々と灯し、そこに佇んでいたのは、フォード・アングリア。
森の枝々にすっかり包まれながらも、確かに、あの車だった。


「……生きてるみたい」チユが呆然とつぶやく。


車はぐるりとヘッドライトを巡らせたかと思うと、まるで飼い主を見つけた犬のように、ロンにすり寄ってきた。



「やっぱりだ!こいつ、ずっとここに住んでたんだ!」
ロンは興奮で顔を赤らめ、車の周りを駆け回る。


「見ろよ!野生化してるぞ!……うわ、傷だらけだ……でもすげぇ……!」



チユは思わず笑ってしまった。ついさっきまで恐怖で心臓が凍りそうだったのに、今はそのおかしさに肩の力が抜ける。
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