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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第14章 アラゴグ


「オーケー……」
観念したようにロンが息を吐く。
「分かったよ。もう逃げ場なんてないしな……行こう」


3人と1匹は森の中へと足を踏み入れた。
ファングは落ち葉や木の根をくんくん嗅ぎながら、必死に3人の周りを回ってついてくる。


小道を這う無数の蜘蛛の足音が、かさかさと不気味に響く。
その音を追って、チユとハリーの杖の光だけが、闇を切り裂く頼りになっていた。


「……静かすぎる」チユがぽつりと漏らす。


「余計なこと言うなよ!」ロンが慌てて振り返った。「そういうこと言うと、なんか出てくるだろ!」


「でも本当にそうじゃない……?葉っぱの音まで止まった気がする」
「わー!やめろって!」

ロンの声が少し裏返ったので、チユは不安の中でも小さく笑ってしまった。



20分ほど歩くと、木々は一層深く絡み合い、空にあったはずの星々すら見えなくなった。

蜘蛛の列がふいに道から外れる。



「どこ行く気だろ?」ハリーが足を止めた。


光の届かない闇の向こうで、影がざわざわと動いている。
心臓がいやなリズムを刻み始める。


そのとき、ハリーの手に何か湿ったものが触れた。


「うわっ!」思わず飛びのいたハリーがロンの足を思い切り踏む。
「いって!」ロンがしゃがみ込むようにして叫んだ。

「……あ」チユが指をさす。ファングが間抜けな顔で鼻を突き出していた。
「……君か……」ハリーとロンは同時にため息をついた。



「どうする?」ハリーが仲間2人を見やった。
杖の光に照らされて浮かんだロンの顔は青ざめている。


「ここまで来ちゃったんだし……戻るほうが怖い」ロンは震えた声で答えた。


「そうだね」チユも頷く。震える手を握り直しながらも、声だけは強く出そうとした。


3人はさらに茂みの奥へと足を踏み入れた。

道はどんどん歩きにくくなった。
太い木の根が行く手を塞ぎ、切り株につまずき、服は低い枝やとげに何度も引っかかる。


「ねえ……これ絶対、普通の道じゃないよね?」チユがつぶやく。


「そんなこと分かりきってるだろ!」ロンが半泣きの声を上げる。「僕たち、夜中に自殺しに来てるみたいだ!」


「大げさだよ」ハリーがロンをたしなめた。



3人が進むにつれ、地面がじわじわと下り坂になっていくのに気づいた。
まるで、何かに吸い寄せられているみたいに――。
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