第14章 アラゴグ
ハグリッドの小屋に着いたとき、窓は真っ暗で、まるで誰も住んでいないように寂しく見えた。
戸を開けると、ファングが待っていたとばかりに飛びついてきた。
「わっ、ちょっと静かに!」
チユが慌てて口に指を当てたが、ファングは大声で吠え続ける。
「……あぁ、これじゃお城中が起きちゃう」
ハリーは急いで暖炉の棚に手を伸ばし、缶から糖蜜ヌガーを取り出す。
「ほら、これ」
大きな顎に甘い塊を押し込むと、ファングはぱくりと噛みしめ――次の瞬間、上下の歯がガチッと固まって閉じてしまった。
「……あ、くっついた」チユが目を丸くする。
「いい子だろ?」ハリーが笑う。
「いい子っていうか……不憫だよ!」
森の入口に差しかかると、ファングは一目散に駆け出し、大木の根元で足を上げて用を足した。
チユは杖を抜き、胸の前でしっかり握った。
「ルーモス!」
先端に灯りがともり、周りを淡い光が照らし出した。夜露に濡れた草が銀色に光る。
「いい考えだね」ハリーが言った。
ロンはじとっと光を見つめてから、ぶつぶつ呟く。
「僕もやりたいけど……でも、僕の杖、下手すると爆発するし……いや、きっと爆発するし……」
「爆発したら、クモどころか、わたしたちまで吹き飛ぶよ」チユが肩をぽんと叩き、草むらを指差す。
光に照らされて、無数の小さな影がざわっと走った。
2匹ほどの蜘蛛が、3人の足元をすり抜け、暗闇へと逃げていく。
「ひっ!」ロンが短く悲鳴をあげ、チユの袖をぎゅっとつかんだ。
「ちょ、ちょっと!引っ張らないで!」
「ご、ごめん!でもデカいのが出てきたらどうするんだよ!」
ロンが真っ青になり、ハリーは笑いを堪えながら先を照らす。
蜘蛛達が、3人を夜の森へと誘っていた。