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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第14章 アラゴグ



「おっと危ない!」
フレッドが身を引くのと同時に、カードが弾け、ジョージの前髪の先が焦げた。


「ふむ、今日の僕はツイてないらしい」
ジョージは焦げた髪を指でつまんで、わざと深刻そうにため息をついた。


「ツイてないのは僕だよ!匂ってる!何か仕掛けただろ!」
ロンが鼻をつまんで叫ぶと、チユは思わず吹き出した。


「ふふっ……なんか、変なにおい……」
「ほら!審判の証言も出たぞ!」ロンが抗議する。


「証言料はキャンディで頼むな」
ジョージが真顔で言ったので、チユはくすくす笑いながら首を横に振った。



ハリーとロンは、勝負を早く切り上げたい一心でわざと負けを重ねていた。
だが双子はそれに気づかないふりをし、逆に負け続ける妙技を披露し始める。


「ジョージ、今度こそ僕の必勝パターンを見せてやる」
「兄弟、それは5回目の必勝パターンじゃないか?」
「繰り返せばそのうち本物になるのさ」


爆ぜるカードに煙と笑い声が混じって、談話室の空気は少しだけ明るさを取り戻していた。


やっとのことでフレッドとジョージが「勝負はまた明日」と立ち上がり、ジニーもあくびをしながら寮へ戻ったのは、とうに12時を過ぎたころだった。


「ふぅ……」
チユは胸を撫で下ろす。
大事な任務があるというのに、つい本気で楽しんでしまった。


談話室に残ったのは、ついに動き出す3人だけだった。
暖炉の炎は赤く揺れ、もう誰も笑い声を立ててはいない。


ハリーが静かに透明マントを取り出すと、ぱたりと本を閉じたように、部屋に沈黙が降りた。
炎の爆ぜる音だけが、3人を送り出す合図になった。


先生に見つからないよう、壁際を抜け、石の廊下をそろりそろりと進む。
扉のかんぬきを外すとき、金属のきしむ音がやけに大きく響いて、チユは思わず息を止めた。

(……お願い、鳴らないで)



なんとか外へ出ると、夜風が頬をなでた。
月明かりが校庭を銀色に照らし出し、影が長く伸びる。


「うん、そうだな……」
草をかき分けながらロンがつぶやく。声がひどく心許ない。


「森に行っても、あのクモがいるかどうかなんて……分からないよな。方向は合ってるような気がするけど、でも……」


言葉はだんだん小さくなり、最後は虫の声に溶けていった。
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