第14章 アラゴグ
グリフィンドールの談話室は、このごろいつもすし詰め状態だった。
6時を過ぎれば、ほかに行き場はなく、しかも誰もが話したいことを山ほど抱えている。
その結果、赤いソファや暖炉の前の絨毯は、深夜になってもなかなか静まらない。
その夜も、ハリーは夕食を終えるとすぐに透明マントをトランクから取り出し、そっと自分の膝に置いて待機していた。
ロンも落ち着かず、椅子に浅く腰かけて靴先で床をとんとん叩いている。
チユはそんな2人を横目に見ながら、暖炉の炎をじっと見つめていた。
胸がざわざわして落ち着かない。
「おっと、重苦しい顔ぶれだな」
フレッドがトランプの束をひらひらさせ、にやりと笑う。
「なにかやらかしたのかと思うくらいだ。なぁ、ジョージ?」
「うむ。犯人は間違いなく――ここの小さなレディだな」
ジョージがチユを指差す。
「わ、わたし?」
思わず声が裏返ったチユに、2人は同時に頷いた。
「今宵の運命を決める、爆発スナップの勝負といこうじゃないか」
「勝者には栄誉を、敗者には……眉毛を焦がす栄光を!」
「いや、今はちょっと……」
ハリーが断ろうとしたが、ロンの肩をぐいっと掴んでフレッドが言う。
「遠慮は無用、坊や。爆発スナップに“やめときます”はないんだ」
「我らの辞書に“不参加”の文字はない!」とジョージもすかさず合いの手。
「……僕たち、そんな辞書持ってないけどな」
ロンがぼそっと突っ込んだ。
「なら今から買い与えてやるさ」
フレッドがトランプをぱしんと切り、カードを勢いよく配り始めた。
「ジニー、観客席がひとつ空いてるぞ」
ジョージが片手で椅子を差し出すと、ジニーは少し迷った顔をしたが、結局ちょこんと腰を下ろした。
「……ここ、ハーマイオニーのお気に入りの椅子だ」
「いつ戻ってきてもいいように、温めておいてあげて」チユが小さく微笑んだ。
ジニーは照れくさそうに笑うと、じっとカードの行方を追い始めた。
ゲームが始まると、談話室の一角は一気に戦場と化した。
「ロン、顔に出すぎ! それじゃ勝てないぞ」
「出してない!」
「出てる出てる。鼻の穴がふくらんでる!」
「兄貴たちのせいで集中できないんだ!」
カードがぱしんと叩きつけられた瞬間、ぱちぱちと火花が散り、机の上で煙が上がる。