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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第14章 アラゴグ


「なぜそんなに湿っぽい顔ばかりなのです?」

その能天気な声に、教室中があきれ返り、互いに顔を見合わせる。
誰1人口を開こうとしなかった。


「おやおや、まだ気がつかないのですか?」
ロックハートは、生徒たちが物わかりの悪い子供であるかのように、ひどくゆっくりとした口調で言った。


「危険は去ったのです!犯人はすでに連行されました!」


「いったい誰がそう言ったんですか?」
ディーンが堪えきれず、大声で叫んだ。


「元気があってよろしい」
ロックハートは得意満面にうなずき、まるで初等算数を説明するかのように話し始めた。


「魔法大臣が100パーセントの確信なくして、ハグリッドを連行するわけがありません!」


「しますとも!」
ロンがディーンよりも大きな声を張り上げた。机がびりっと震えるほどの勢いだ。


チユはロンの横顔を見た。耳まで真っ赤になっている。


「自慢するつもりはありませんが、私はウィーズリー君より、ハグリッドの件には詳しいのですよ」
ロックハートは胸を張り、歯をきらりと光らせた。


「そんなわけ――」
ロンが立ち上がりかける。


しかし、机の下からハリーの足がそっとロンの脛を蹴った。ロンは呻き声を上げそうになり、慌てて飲み込んだ。


「僕たち、あの場にはいなかったんだ。いいね?」
ハリーの低い声に、ロンは歯を食いしばって頷いた。


だが、チユはもう堪えきれなかった。
心臓がどくどくと鳴る。


「……違う」
小さな声が、勝手に唇から漏れた。

近くの生徒が振り返ったが、チユは顔を上げたまま目をそらさなかった。



ロックハートの自慢げな言葉が続くたびに、胸の奥がざわめいて、吐き気すら覚えた。

(ハーマイオニーもニックも……みんな石のままなのに、どうしてこの人だけ、こんなに笑っていられるの……?)


机の下で拳をぎゅっと握る。
ハリーが隣でノートの切れ端を走り書きしていた。


「今夜、決行しよう」


ハリーがそれをロンとチユに回す。
ロンは息を呑み、からっぽの席――ハーマイオニーがいつも座っていた机の端に視線を落とした。
その視線を追うチユの胸にも、強い決意が芽生えていった。



ロンがうなずいた瞬間、チユも小さくうなずき返した。
その目には、もはや迷いはなかった。


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