第2章 秘密の夏休み
チユは小さく「ごめんなさい」と呟いた。
モリーおばさんの怒りが自分にも向いているのがわかって、足元を見つめたまま、声も出せずに息を詰める。
けれどその一言に、モリーおばさんの表情がふっとやわらいだ。
「まあ、チユ……怪我はないのね?本当に大丈夫?フレッドとジョージに無理やり連れ出されたんでしょう?可哀想に……怖かったでしょう」
チユは小さく頭を横に振った。
それからモリーおばさんは、今度はハリーの方を振り返った。
「ハリー、よく来てくださったわねぇ。さあ、お家に入って。朝ごはんを食べましょう」
そう言ってくるりと向きを変えると、家へと歩きだした。
中では、鍋や皿がガチャガチャと音を立てながら、どこか行き当たりばったりな手際で朝食の準備が始まった。
ウィーズリー夫人は息子たちに時折鋭い視線を投げつけながら、フライパンにソーセージを次々と放り込んでいく。
「まったく……何を考えてるのかしら……」
「こんな無茶なこと、聞いたこともないわよ……」
ぶつぶつと小声で文句を言いながらも、彼女はチユとハリーのお皿には惜しみなくソーセージを滑り込ませた。気がつけば8本も9本も乗っている。
「アーサーと2人で、ずっとハリーのことを心配していたのよ」
「昨夜だって、金曜日までにあなたからロンに返事が来なかったら、私たちが迎えに行こうって話してたぐらいなのに……」
そして、少し声を強めた。
「それなのに!不正使用の車で空を飛んでくるなんて……見つかったら新聞に乗っていたわよ!!」
そう言うと、流しに向かって杖をひと振り。魔法で洗い物が勝手に動き出し、カチャカチャと軽い音を立てて皿が洗われていく。
「まさか、写真入り……?」
フレッドが肩をすくめる。
「それなら、できれば右側から撮ってもらいたいな。左の鼻の角度、ちょっと気に入らないんだよね」
ジョージが平然と言ってのけた。
「食べてるときはおしゃべりしないこと!」
モリーおばさんがピシャリと一喝する。
「でもママ、俺たち、ちゃんとハリーを救出したんだよ?」
ジョージが両手を広げて、妙に真面目ぶって言う。
「いわば、勇敢なるレスキュー作戦だよ」
フレッドも乗っかる。
「お・だ・ま・り!」ピシャリと返されて、双子は口をつぐんだ。