第2章 秘密の夏休み
空飛ぶ車はゆっくりと高度を下げていった。木々の間からは、真っ赤な曙光が差し込み始めている。
「着地、見事に成功!」
フレッドが得意げに宣言し、車が軽く地面を打って着陸した。
ハリーは初めて目にするロンの家を見て、思わず目を見張った。
チユもまた、最初にここに来たときの驚きを思い出していた。
かつては豚小屋だったんじゃないかと思える石造りの建物に、あちこち継ぎ足したような不思議な家。まるで積み木を重ねたように不安定そうで、でもどこか温かみのある家。
赤い屋根の上には、4、5本の煙突がちょこんと乗っている。
「よし、ここからが作戦だ」
フレッドがこっそりと囁くように言った。
「みんな、そーっと静かに2階まで行くんだ。母さんが朝ご飯よーって呼ぶまで、絶対に音を立てるなよ?」
「で、ロン、お前がだな。大げさに階段をドタバタ下りて行って言うんだ」ジョージが続けた。
「『ママ!夜の間に誰が来たと思う!?』ってな。そうすりゃ母さんはハリーに目が釘づけで、俺たちの小旅行のことなんて……」
「誰も覚えてない、完璧な作戦ってわけさ!」とフレッド。
「よっしゃ、じゃ、ハリー、こっちだよ。僕の寝室は――」
……その瞬間、ロンの顔がサッと青ざめた。
目が一点に釘づけになっている。チユも、何かを感じて後ろを振り返った。
そこには、庭の向こうから鶏を蹴散らしながら突進してくるモリーおばさんの姿が――!
「アチャ……バレた……」フレッドがぼそっと言い、
「こりゃ、全滅だな……」とジョージが続けた。
モリーおばさんは5人の前でぴたりと立ち止まると、腰に手を当て、バツの悪そうな顔を1人1人、ゆっくりとにらみつけてきた。
「それで?」
ジョージはなんとか笑顔を作って言った。
「おはよう、ママ!」
「母さんがどれだけ心配したと思ってるの!?あんたたち、わかってるの!?」
その低い声には怒りと恐怖が混じっていて、チユは思わず背筋を伸ばした。
「ベッドは空!メモもない!車は消えてる!それに、チユまで連れ出して……こんなこと、初めてだわ……お父さまが帰ったら覚悟なさい! ビルもチャーリーも、パーシーだって、こんな苦労かけたことないのに!」
「完璧・パーフェクト・パーシー」フレッドがぼそっとつぶやいた。
「パーシーの爪のあかでも煎じて飲みなさい!」
