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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第14章 アラゴグ



「ハリー……本当に見つかるのかな」
思わず小声でつぶやくと、ハリーが振り向いた。
その顔には迷いもあったけれど、瞳だけはしっかりと前を見ていた。



「わかんない。でも……やるしかないんだ」


その言葉に、チユは小さく頷いた。
胸の奥の冷たい不安を振り払うように、息を吸い込む。



廊下では、先生に引率されながらグリフィンドール生が列を作って歩いていた。
中にはふざけ合って笑う者もいる。けれどその笑い声は、緊張に満ちた空気の中ではどこか不自然で、すぐに押し殺されてしまう。


ハリーたちはその列に組み込まれても、心ここにあらず。
チユも足を止めて、窓の外の青空と緑の庭を無意識に見つめた。


そんな中――ただ1人だけ、恐怖を楽しみに変えている者がいた。
ドラコ・マルフォイ。肩をそびやかし、まるで勝者のような顔で歩いている。その余裕ぶりが、チユの胸をざわつかせた。


(どうして……あんなに平然としていられるの……?)


やがて魔法薬の教室。
シチューのような匂いが漂う中、チユの耳にマルフォイの声がはっきり届いた。
わざと聞かせるような大きさで、クラッブとゴイルに語っている。



「父上こそがダンブルドアを追い出す人だろうって、僕は最初からわかってたんだ」


その口調は得意げで、どこまでも鼻についた。


「前にも言っただろう?父上はダンブルドアを“この学校始まって以来の最悪の校長”だと考えてる。今度はもっと相応しい校長が来るさ。“秘密の部屋”を閉じたりしない、真に純血を理解する誰かがな」


クラッブとゴイルが鈍い笑い声を上げた瞬間、チユの手は膝の上でぎゅっと拳を握りしめた。


その時、スネイプがハリーのすぐそばをすり抜けていった。
視線はちらりと空いたハーマイオニーの席に向いたが、何も言わない。

空席と、手つかずの大鍋がただ寂しく見える。


「先生」
マルフォイがわざとらしく声を張った。
「次の校長に志願なさってはいかがです?みんな納得すると思いますよ」


「マルフォイ」
スネイプは低く制したが、その口元には確かに小さな笑みが浮かんでいた。


「ダンブルドア先生は停職にされたが……すぐにお戻りになるだろう」


「さぁ、どうでしょうね」
マルフォイがにやりと笑う。その灰色の目は父親の瞳とよく似ていて、チユは背筋がぞっとした。

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