第14章 アラゴグ
スネイプが教室を闊歩している中、マルフォイの声は相変わらず人を逆なでする。
「先生が立候補なさるなら、父が支持すると思いますよ。僕が、父にスネイプ先生はこの学校で最高の先生だと伝えますからね」
おべっかとも皮肉ともつかない言葉。
チユは胸の奥がざらつくのを感じた。
スネイプは薄い笑みを浮かべたが、その目の奥にかすかな光が走るのを、チユは見逃さなかった。
それでも、マルフォイの口は止まらない。
「穢れた血の連中がまだ荷物をまとめてないのは驚きだね。…次のは死ぬ。5ガリオン賭けてもいい。グレンジャーじゃなかったのは残念だ」
――その瞬間。
チユの視界が一気に赤く染まった。
隣のロンがガタンと椅子を蹴立て立ち上がる。
「やらせてくれ!」
ハリーとディーンが慌ててロンの腕をつかむ。
「やめろ、ロン!」
だがロンは唸るように叫んだ。
「かまうもんか!素手でやっつけてやる!」
チユも思わず口を開いた。
「だめ!ここで殴ったらマルフォイの思うつぼだよ!」
声が震えていたけれど、それがロンの胸に届いたのか、彼は一瞬だけ目を伏せる。
ちょうどその時、終業のベルが鳴った。騒然とした中で、スネイプの声が響く。
「急ぎたまえ。薬草学に引率せねばならん」
皆がぞろぞろと教室を出る間、ロンはまだ荒い息をついていたが、やっとのことで手を放した。
チユはその背中を心配そうに追いながら歩いた。
廊下に出ると、薬草学へ移動する列の合間で、チユは偶然ジョージと鉢合わせた。
「なんだ、その顔。スネイプの毒でも浴びたか?」
軽口まじりの声に、胸の奥の緊張が一瞬ほぐれた。
「……ううん、マルフォイの」
曖昧に返すと、ジョージは片眉を上げて、にやりと笑った。
「なら解毒剤はこれだな」
そう言ってチユの肩を軽く小突き、ポケットから包み紙のついた甘い菓子を取り出す。
「特効薬だ。副作用は、うま過ぎてもう1個欲しくなること」
チユは思わず吹き出して、受け取った飴玉を握りしめた。
ほんの少しだけ、重たい気持ちが溶けていく。
けれど――怒りが消えたわけじゃない。
チユはふと足を止め、マルフォイの背中をにらみつけた。
チユはポケットに手を忍ばせ、ある物を取り出す。
以前、双子からもらった『臭い玉』
それを彼のローブのポケットに忍ばせる。