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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第14章 アラゴグ



夏は、知らぬ間に城の周りを覆い尽くしていた。
空はどこまでも青く澄み、湖はきらめき、温室の中ではキャベツの玉ほどもある花々が、色とりどりに咲き乱れている。



――けれど、その明るさは少しも心を慰めなかった。



窓から見える校庭に、ハグリッドの姿がないだけで、世界はこんなにも寂しいものに見えるのか、とチユは初めて知った。



(校庭を歩く大きな背中を探してしまう……。いないってわかってるのに)



外は変わらぬ夏の顔をしているのに、城の中は何もかもがおかしくなっていた。



ハリーとロンと一緒にハーマイオニーのお見舞いに行こうとしたが、医務室の前で止められた。
扉の割れ目からマダム・ポンフリーが覗き、眉間に深いしわを寄せて言った。



「危ないことは、もう一切できません」
ぴしゃりとした声に、チユの背筋はひやりとする。


「患者の息の根を止めに、また襲ってくる可能性が充分にあります。今は静養あるのみです」



扉はしっかりと閉ざされ、取りつく島もなかった。


ダンブルドアがいなくなったことで、恐怖はこれまで以上に広がり、重くのしかかっていた。
陽射しが城壁を温めても、閉め切られた窓は太陽さえ拒むかのように見える。


誰もかれもが顔をこわばらせ、言葉を潜める。
ほんの少し笑い声を上げれば、廊下に反響してやけに甲高く響き渡り、たちまち押し殺されてしまう。



チユは思わず腕を抱いた。
(今のホグワーツは、大きな牢屋みたい……)



胸に広がる不安の重さを、誰にも言えないまま飲み込んだ。



ハリーはダンブルドアの残した言葉を何度も反芻していた。


「わしが本当にこの学校を離れるのは、わしに忠実な者が、ここに1人もいなくなったときだけじゃ……ホグワーツでは助けを求める者には必ずそれが与えられる」



チユも横でじっと聞きながら、胸の奥でざわざわした不安が広がるのを感じた。
この言葉の意味はなんだろうか?


ハグリッドが言った“クモの跡”の方が、まだわかりやすかった。
だが、チユとハリー、ロンは行く先々でくまなく床や角を探し回ったが、城内には1匹のクモも残っていないようだった。
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