第13章 失われた背中、残された影
ハグリッドは無骨な手でモールスキンのオーバーを羽織り、ずしりとした足取りで出口へ向かった。
ファッジに続き、扉のところで振り返ると、大声で言い放つ。
「それから、誰か、俺のいねぇ間、ファングに餌をやってくれ!」
次の瞬間、重たい扉がバタンと閉まり、外の気配が遠ざかった。
しん、とした小屋の中。
ロンが慌てて透マントを脱ぎ、顔色をなくした。
「大変だ……」
かすれた声で呟く。
「ダンブルドアがいない。今夜にも学校を閉鎖したほうがいい。あの人がいなけりゃ……1日1人は襲われるぜ」
ファングが、閉ざされた扉に鼻を押しつけて引っかき、悲しげに鳴き出した。
チユはその場にしゃがみこむ。
いつもは近づいただけで吠えられるのに――今日はファングが逃げなかった。
おそるおそる手を伸ばすと、湿った毛並みが彼女の掌に触れ、犬はただ鼻を鳴らすだけだった。
「……大丈夫、きっと大丈夫だよ」
ぽつりと呟いた声が震えた。
自分のほうこそ慰めてもらっているようで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「クモの跡を追え、って……」ハリーが静かに言った。
「ハグリッドが託したんだ。僕らに」
ロンはぎょっとして肩をすくめた。
「げっ……クモなんて、できれば一生見たくもないんだけど」
顔をしかめてぶつぶつ言う姿は、真剣なのにどこか情けなくて、重苦しい空気にほんの少しだけ笑みをもたらした。
けれどファングの鳴き声がまた響き、沈黙が戻る。
チユは涙ぐみそうになるのを堪えながら、仲間たちを見回した。
「……でも、ハグリッドは、私たちを信じて託してくれたんだよね」
その声は震えていたけれど、どこかで決意の色を帯びていた。