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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第13章 失われた背中、残された影


ハグリッドは無骨な手でモールスキンのオーバーを羽織り、ずしりとした足取りで出口へ向かった。
ファッジに続き、扉のところで振り返ると、大声で言い放つ。


「それから、誰か、俺のいねぇ間、ファングに餌をやってくれ!」


次の瞬間、重たい扉がバタンと閉まり、外の気配が遠ざかった。


しん、とした小屋の中。
ロンが慌てて透マントを脱ぎ、顔色をなくした。

「大変だ……」
かすれた声で呟く。


「ダンブルドアがいない。今夜にも学校を閉鎖したほうがいい。あの人がいなけりゃ……1日1人は襲われるぜ」



ファングが、閉ざされた扉に鼻を押しつけて引っかき、悲しげに鳴き出した。


チユはその場にしゃがみこむ。

いつもは近づいただけで吠えられるのに――今日はファングが逃げなかった。
おそるおそる手を伸ばすと、湿った毛並みが彼女の掌に触れ、犬はただ鼻を鳴らすだけだった。


「……大丈夫、きっと大丈夫だよ」


ぽつりと呟いた声が震えた。
自分のほうこそ慰めてもらっているようで、胸の奥が少しだけ温かくなる。


「クモの跡を追え、って……」ハリーが静かに言った。
「ハグリッドが託したんだ。僕らに」


ロンはぎょっとして肩をすくめた。
「げっ……クモなんて、できれば一生見たくもないんだけど」


顔をしかめてぶつぶつ言う姿は、真剣なのにどこか情けなくて、重苦しい空気にほんの少しだけ笑みをもたらした。


けれどファングの鳴き声がまた響き、沈黙が戻る。


チユは涙ぐみそうになるのを堪えながら、仲間たちを見回した。


「……でも、ハグリッドは、私たちを信じて託してくれたんだよね」
その声は震えていたけれど、どこかで決意の色を帯びていた。

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