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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第13章 失われた背中、残された影



「落ち着くんじゃ、ハグリッド」

ダンブルドアが厳しい声でたしなめた。その声音は雷鳴のように強く、それでいて、どこか慈悲がにじんでいた。


「理事たちがわしの退陣を求めるなら……ルシウス、わしはもちろん退こう」


「しかし――」
ファッジが口ごもった。

「だめだ!」
ハグリッドは唸るように叫んだ。


退陣……ダンブルドアがいなくなったら、本当にこの学校はどうなるのだろう?
胸の奥がひやりと冷たくなり、思わずハリーとロンをちらりと見た。
2人もきっと同じ思いに違いない。



ダンブルドアは、明るいブルーの目でルシウスの冷たい灰色の目を見据えた。
「しかし――」


その声は、ゆっくりと、確実に、すべての者の耳を打った。


「覚えておくがよい。わしが本当にこの学校を離れる時は、わしに忠実な者が1人ももいなくなったときだけじゃ」
静かな言葉に、チユの胸の奥で小さな炎が灯る。


「ホグワーツでは――助けを求める者には、必ずそれが与えられる」
一瞬、青い瞳がきらりと光り、隠れているハリーとロンの方へ向けられた。


そのとき、チユは不思議な感覚にとらわれた。まるで自分の中まで見透かされ、背中を押されたように思えたのだ。


「あっぱれなご心境で」
ルシウスがわざとらしく頭を下げる。


「アルバス、我々はあなたの――非常に個性的なやり方を、きっと懐かしく思うでしょう。そして、後任者がその“殺し”を未然に防ぐのを願うばかりですな」


皮肉たっぷりの言葉に、思わず口を開きかけたけれど、喉の奥が震えただけで声にならなかった。


ルシウスは大股で戸口に向かい、冷たい風を引き込むように扉を開け、ダンブルドアに一礼して先に出て行った。


ハグリッドは足を踏ん張り、深く息を吸い込むと、かすかに声を震わせながら言った。


「何かを見つけたかったら……クモの跡を追っかけていけばええ。そうすりゃ……ちゃんと糸口がわかる。俺が言いてえのは、それだけだ」


ファッジはあっけに取られたように目を丸くした。

チユは胸を押さえ、必死にその言葉を心に刻んだ。
(クモの跡……?それが道しるべ……。ハグリッドは……わたしたちに託してるんだ)

怖い。けれど、この瞬間だけは、チユもダンブルドアやハグリッドの勇気に守られているように思えた。
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