第13章 失われた背中、残された影
すると、ドンドンッ!と、戸を叩く鋭い音が小屋を震わせた。
ダンブルドアが振り返り、ゆるやかに戸口を開く。
その瞬間、チユの隣でハリーが大きく息を呑み、ロンの肘が彼の脇腹をこづいた。
月明かりの中から、銀の髪を持つ男がゆっくりと現れた。
気取った身なり、鋭い目、冷ややかな笑み。
ルシウス・マルフォイだった。
長い黒い旅行マントが月明かりを受けて光り、彼は冷たく口元を歪めて笑っていた。
ファングが、低くうなり声をあげる。
その音が、チユの背中にひやりとしたものを走らせた。
「もう来ていたのか、ファッジ」
ルシウスの声は、どこか愉快そうだった。
「よろしい、よろしい……」
「なんの用があるんだ?」
ハグリッドの声は荒れていた。
「俺の家から出ていけ!」
「威勢がいいね」
ルシウスは小さく鼻で笑った。
「言われるまでもない。だが……これを“家”と呼ぶのかね?この狭苦しい丸太小屋を。私とて、好きでここに足を踏み入れているわけではない」
チユは悔しさで、思わず唇を噛みしめた。
「ただ学校に立ち寄っただけなのだが、校長がここにいると聞いたものでね」
「それでは、いったいわしになんの用があるというのかね? ルシウス?」
ダンブルドアの声は、穏やかに響いた。だがそのブルーの瞳は、まだ炎を宿したままだった。
「実にひどいことだがね、ダンブルドア」
ルシウスは長い羊皮紙を取り出し、もったいぶった仕草で広げて見せた。
「しかし、理事たちは――あなたが退くときが来たと感じたようだ。ここに“停職命令”がある」
羊皮紙の端をひらりと持ち上げ、勝ち誇ったように言う。
「12人の理事が全員署名している。残念ながら、多くの理事は、あなたが現状を掌握できていないと感じておりましてな」
チユは血の気が引いていくのを感じた。
“退く”……? ダンブルドア先生が……ホグワーツからいなくなる?
「これまで、いったい何回襲われたというのかね?」
ルシウスの声は小屋の中を冷たく切り裂いた。
「今日の午後にもまた2人。そうですな?この調子では、ホグワーツにはマグル出身者は1人もいなくなりますぞ」
彼は一拍置き、唇の端をいやらしく持ち上げる。
「それが学校にとってどんなに恐ろしい損失か……我々すべてが、よく承知しておるのです」