第13章 失われた背中、残された影
ハグリッドは血の気を失った顔で、椅子にどさりと腰を落とした。
その大きな体が揺れるたびに、床板がきしむ。
「状況はよくない、ハグリッド」
ファッジの声は妙に固く、どこか自分を守るための響きを帯びていた。
「すこぶるよくない。来ざるを得なかったのだ。マグル出身4人も襲われた。もう始末に負えん。本省が何かしなければならん」
「俺は、けっして――」
ハグリッドはうわずった声で、ダンブルドアを見上げる。
「ダンブルドア先生さま、知ってなさるでしょう。俺は、けっして……!」
ダンブルドアの瞳は、深く、力強い光を宿していた。
「コーネリウス、これだけはわかってほしい。わしはハグリッドに金蔵の信頼を置いておる」
チユはハグリッドが責められているのが、どうしても信じられなかった。
少し不器用だけど、いつだって自分たちを守ってくれた。そんなハグリッドが――。
「しかし、アルバス」
ファッジは山高帽をいじりながら、落ち着かない様子で言葉を探す。
「ハグリッドには不利な前科がある。魔法省としても、何かしなければならんのだ。学校の理事たちがうるさい」
「コーネリウス、もう一度言う」
ダンブルドアの声は、いつになく鋭かった。
「ハグリッドを連れていったところで、なんの役にも立たんじゃろう」
その青い瞳に燃えるような炎が揺らぎ、チユは思わず背筋を震わせた。
「私の身にもなってくれ」
ファッジは困ったように眉をひそめ、帽子を握りしめる。
「プレッシャーをかけられているのだ。何か手を打ったという印象を与えねばならん。ハグリッドではないとわかれば、彼はここに戻り、なんのとがめもない。だから、ほんの形式だ。連行せねばどうしても……私にも立場というものが――」
「俺を……連行?」
ハグリッドの声が震えた。
「どこへ……?」
「ほんの短い間だけだ」
ファッジは視線を合わせようともせずに言った。
「罰ではない、ハグリッド。むしろ念のためだ。ほかの誰かが捕まれば、君はすぐ釈放される……」
「まさか……アズカバンじゃ?」
その言葉が絞り出された瞬間、チユの心臓が跳ねた。
冷たい恐怖が背中を這い上がる。
(アズカバン…ってあの…?恐ろしい牢獄に……ハグリッドを……!?)
頭がぐらぐらする。もしそんな事になったらと想像するのもつらい。
