第13章 失われた背中、残された影
ハグリッドは、ぐらりと揺れる大きな手でマグカップを3つ差し出した。
湯気がほかほかと立ちのぼるが――ティーバッグは入っていない。
湯そのものを手渡されて、チユは思わず硬直した。
(……これ、ただのお湯だ……)
喉の奥で笑いそうになるが、ハグリッドの硬い表情に押しつぶされて飲み込んだ。
フルーツケーキを皿に取り分けるハグリッドの指先がかすかに震えている。
そのとき――
ドンッ!
戸を叩く大きな音が響いた。
フルーツケーキが床に落ち、ぼろりと崩れる。
ハリーとロンが同時に顔を上げ、真っ青な顔で見つめ合った。
そして次の瞬間、反射的に透明マントを引っ張り出し、チユもろとも部屋の隅に押し込んだ。
「は、早く!こっちだ!」
ロンが声を潜めてチユの腕を引き寄せた。
ぎゅっと狭い空間に押し込まれ、チユは必死に息をひそめる。
ハグリッドの大きな背中が戸口に向かう。
3人がきちんと隠れたのを確かめるようにちらりと視線を投げ、今度は石弓をわしづかみにした。
再び、バンッと扉が開かれる。
「こんばんは、ハグリッド」
落ち着いた声。
姿を現したのは――ダンブルドアだった。
その顔には深い皺が刻まれ、いつもの穏やかさよりも、緊張の色が濃い。
そして、その後ろから現れたもう1人の男を見て、チユは思わず息を呑んだ。
背が低く、恰幅がよく、くしゃくしゃの白髪頭。
顔はどこかくたびれていて、悩み事をそのまま背負い込んでいるような表情をしている。
着ているものはどこかちぐはぐで――細縞のスーツに真っ赤なネクタイ、黒い長いマント。さらに足元は先の尖った紫のブーツ。小脇には、ライム色の山高帽。
「パパのボスだ!」
隣でロンが青ざめながら囁いた。
ハリーが肘でつつき、必死に黙らせる。
「……コーネリウス・ファッジ。魔法大臣だ」
魔法大臣……――魔法省の「1番偉い人」
そんな人が、こんな夜中に、わざわざハグリッドの小屋に……?
(まさか……ハグリッドが、本当に……?)
不安がどっと押し寄せ、思わずハリーのローブの裾を握りしめた。