• テキストサイズ

ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第13章 失われた背中、残された影


城は、まるで昼間のように人で満ちていた。
先生や監督生が行き交い、ゴーストたちまでもが壁際に浮かび上がり、不審な気配を探っている。

マントが姿を隠してくれるとはいえ、物音までは消せない。


危なかったのは、ロンがつまずいたときだった。
ほんの数歩先にスネイプが立っていたのだ。

「コンチキショー!」とロンが思わず悪態をついた、その瞬間。

スネイプが大きなくしゃみをひとつ――。
音が重なり合い、3人は息を殺しながらすれ違った。


やっと正面玄関にたどり着き、樫の扉を押し開ける。
夜気が頬をかすめたとき、チユの胸から思わず小さな吐息がこぼれた。


星が冴えわたる夜だった。
湖の向こうまで光が散り、冷えた空気が頬を突き刺す。

3人は息を合わせて駆け出し、ハグリッドの小屋へと向かった。


戸を叩くと、ガタンと音を立てて扉が勢いよく開く。
真っ先に飛び込んできたのは、ぎらりと光る矢じりだった。


「ひゃっ――!」
チユは反射的にハリーの袖をつかむ。


「おお!」
ハグリッドが驚いた声をあげ、石弓を下ろした。背後ではファングが吠え立てている。


「なんしとるんだ、こんな夜中に!」


「こっちの台詞だよ」ロンが思わず言い返す。「なんで武器なんか持ってんのさ?」


「なんでもねぇ……なんでも……」
ハグリッドは落ち着きなくもごもごとつぶやき、中へ招き入れた。


チユはまだ鼓動の速さを抑えられずにいた。
ハグリッドの顔がやけに固く、そして窓の外をちらちら気にしているのが気にかかる。


「座れ。……茶、いれるわい」
大きな背中が忙しなく動く。


だが心ここにあらずなのか、やかんの水を勢いよくこぼしたり、暖炉の火をかき立てすぎて火花を散らせたり。
ついにはごつい手の甲でポットを落とし、床で粉々に砕け散らせてしまった。


「ハグリッド、大丈夫?」
チユが思わず声をかける。


「お、おう……だいじょうぶだ」


気まずい空気を破るように、ハリーが言った。
「…ハーマイオニーのこと、聞いた?」


「あぁ……」


ハグリッドの大きな肩がびくりと揺れる。


「聞いた。あの子まで……なんてこった」


ファングが低く唸る。外の森の暗闇が、いつもよりも濃く重たく感じられる。
ハグリッドの目は、それに怯えるように、また窓の外へと泳いだ。
/ 300ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp